第18話

 鈴と別れた俺と先輩は、現在二条城の近くにある図書館にて何か魔怪に関しての資料などが無いか探している最中である。魔怪の存在は世間には一切知られていないが、その魔怪が起こした事件や騒動が怪奇現象や伝承として資料に残されていたり、存在が妖怪や未確認生命体として語り継がれていたりといったことはよくある話だ。


 とは言っても、そんな都合よく対象について書かれているものが見つからないというのが実際のところではある。なんて思いつつ超心理学の本棚から何か手掛かりが書かれていそうな本はないかと探しているところだ。ちなみに先輩は児童書のコーナーにある妖怪図鑑とかから調べている。


 魔怪についてもだけど、何か俺の能力についてもわかりそうなものはないものか。パイロキネシスっぽいのは使えるしそれについて調べてみようかと思い「パイロキネシス――イフリートを目指した少女」というタイトルの本を取り出した。なんか鈴が気に入りそうなタイトルというかラノベ臭しかしないがとりあえず読んでみよう。


 少女の周囲で謎の発火現象……能力を制御できない……無意識の内に部屋を……しかし次第にコントロールできるように……しかし体調不良に陥ったり精神状態が不安定になると発火してしまい……。


 閲覧室で斜め読みしてみたが、自分の場合とは全く当てはまらなかった。別に能力が制御できない訳でもないし、火力のコントロールも最初からできたし。直接本人から何か聞ければわかることもあるのかもしれないが、少なくともこの本を読む限りでは俺の能力については何もわからなさそうだった。


「なんなんだろうな……結局……」


 俺が本を閉じて返却棚に戻そうとしたところで、先輩がうきうきとした足取りでこちらへと近づいてきているのが見えた。


「何か見つかったんですか」

「うん……! もしかしたらその椿の魔怪、古椿ふるつばきの霊かも……!」

「古椿の霊?」

「ほら、ここに……」

「あ、ちょっと待って下さい。この本戻すので」

「う、うん。ならあそこの閲覧室で待ってるね」


 そう言って先輩は「怪奇! 植物図鑑」なる本を手に6人掛けの無人の席へと小走りで向かって行った。おどろおどろしい妖怪のイラストが描かれている表紙からして似たようなタイトルの恋愛小説のそれとは雰囲気が全く違っていた。


 先輩が座るのを見届けてから、俺は返却棚の「イルカの生態と隠されし秘密」というタイトルの本の横にパイロキネシスの本を置いたのだった。そう、実はさっきイルカについても調べていたのだが、人間の姿になれるイルカが存在しているなんて秘密はどこにも書いていなかった。ムリムちゃんはともかく、あのクソガキは本当に何なんだ全く。


「ここの古椿の霊って怪異が魔怪なんじゃないかな……」


 先輩は俺が隣に座るや否や、本を開き、そのページに描かれていた木の側に立つ着物を着た怪しげな女性の絵を指さしてきた。


「どれどれ?」


 俺はその絵の下に書かれていた説明文に目を通す。長い年月を経た椿の木に精霊が宿り、怪異と化した存在。美女に化け人間の生気を吸い取る……椿は花弁をそのまま落とす為人の死を連想させる……幻術などを扱い人を誑かす……。


「なるほど。確かにこれっぽいですね。でも肝心の対処方法が書かれてないですね」

「そうなんだよね……襲われた後どうすればいいのかが書かれていないから……」


 草なら燃やせば効果抜群じゃないかと思うかもしれないし俺も今そう思ったのだが枯れていない草はなかなか燃えないんだよな。燃えるくらいの火力にしたら俺の手が燃えるし、延焼とかも気にしないといけない。


「でも、美女に化けることが多いというのがわかったのはよかったですね。妖しい植物じゃなくて、妖しい美女を探せばいいってことですし」

「……」

「先輩?」


 なぜか先輩が俺を不満げな顔で見つめていた。


「ちょっとワクワクしてたりしてない……?」

「してる訳ないです」

「ほんとに?」


 先輩が俺の言葉を疑うような目をする。俺は真面目に考えていたのになんなんだこの人は。


「本当ですよ。そもそも俺はあまり大人のじょせ――」

『この変態救いようもないロリコン

「がはっ……!?」

「な、ナポリ!? 大丈夫!?」


 突如あのクソガキの言葉が脳内で再生され、強烈な痛みが頭を襲った。なんでここで……そうか……俺は危うくロリコン宣言を……。


「大丈夫です……。とにかく、俺は真面目にやりますので、先輩もどうか真面目に」

「わ、わかった……なんかごめんね……」


 先輩に変な心配と謝罪をさせてしまったではないか。やっぱり今度会ったら絶対泣かせるかどうにかしてやろう。


『また私に責任を押し付ける。だからいつまでもロリコ――』


 もうわかったからやめてくれ。ずけずけずけずけと蘇る記憶に俺は頭を抱えた。なんであんなクソガキにここまで苦しめられなきゃいけないんだ。なんかこっちが泣きそうになってきた。


「や、やっぱり大丈夫じゃなさそうだよ……! とりあえずどっか休める場所に……」


 こうして俺は先輩に気遣われ、視線がチクチクと刺さってきているのを感じつつ図書館を後にしたのであった。


 もしかしたら、俺と先輩は周囲からはカップルに思われたりしているのだろうか。この際別にそう思われてもいいけどあのクソガキは今度会ったらどうにかしてやろう。絶対に。

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