オフ会の銀髪幼女

第11話

 氷嶺島の件が終わってから1ヶ月後、俺は再び東京へとやって来ていた。今は東京駅の人の多さにビビり散らかしながらも目的地へ向かう列車が止まるホームへと歩いている真っ最中である。


 今回の遠征の目的は、推しのVTuberである繰夢ムリムちゃんのファンが企画したオフ会へと参加することだ。この日の為に俺は俺の元に来た討伐任務を手っ取り早く片づけたりとばりとアムリタに押し付けたりした。多分来週からしっぺ返しを食らうことになるかもしれないが、それは仕方ない。甘んじて受け入れるとしよう。


 ともかく、今の俺は破怪師でも小橋めいあの世話係でもない、ただのムリムちゃんのファン「リメンバー」の一員だ。仕事のことは一切考えるな、うん。


 なんて自分に言い聞かせながらホームで列車を待っているとすぐに来たのでそれに乗り込むと気づいたら目的の駅に到着していた。


「速いな。さすが東京と言うべきか」


 なんて言いながらスマホで地図アプリを開き、会場であるレンタルスペースまで徒歩で向かう。そして辿り着いた先には。


「普通の家にしか見えないぞ……」


 目の前にある建物は、どこにでもありそうな何の変哲もない三角の屋根の一軒家だった。ここでいいのか。いいんだろうか。でも他にそれっぽい建物もなさそうだしとりあえずインターホン押してみるか。ピンポーン。押してしまった。するとインターホンから「はーい」という声が聞こえてきた。しかも女性の。「リメンバー」に女性がいないとは言わないが果たして本当にここなのだろうか。一気に不安が押し寄せる。


「あなたも、リムリムのファンですか」


 ややあって、開かれたドアから姿を現した女性――いや、少女は、銀髪で、丸眼鏡を掛けていて、淡いベージュのワンピースを着ていて。


「あ、はい……」


 腑抜けた返事をしてしまったが、ちょっと待て。


「私はLouis《ルイ》といいます。あなたは?」

「スパゲたん、です」

「そうですか。では中へどうぞ」


 待て。


 何だこの妖気は。いや、妖気といっていいのか? 何か別の気配のような、そんな気もする。それに俺は目の前にいるこの少女をどこかで見たような気がする。


「どうしましたか。トイレなら中にありますよ」

「あ、いや、そういう訳じゃない。ごめん」

「ならいいですが」


 そうだ。先輩と一緒にスカイツリーに行った時――一瞬だが、すれ違ったんだ。あの時はアムリタみたいな魔怪が他にもいるのかと思った。でも、アムリタの件は既に終わったことだし先輩と一緒に楽しみたいからあえて何も考えないようにしていたんだ。


「おじゃまします……」


 結局、俺はどこに行っても、いつまで経っても破怪師で、それ以外の存在にはなれないってことか。


 まあいい。とにかくこの少女――ルイの正体を探ってみるとしよう。


 そう思いながら、俺はオフ会会場であるレンタルスペースの中へと足を踏み入れたのだった。

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