第7話
「中へどうぞ」
「お……おじゃまします」
「おじゃまします」
あそこで立ち話するのもなんだという訳で、俺たちは天才少女――住谷とばりに連れられて昭和の時代から走っていそうな年季が入ったバスに20分程揺られ、それから雪国特有の四角い屋根をした質素な一軒家の中へと案内された。
室内は外とは打って変わって、サウナかとでも言いたいくらいに空気がむわっと蒸していた。何ならちょっと暑すぎないかとも思ったが、こうでもしなきゃこんな環境でまともに生活なんてできないんだろうなとも少し感じた。
「えっと……ここって……」
「私の自宅です。先に言っておきますが貴方たちを泊めさせることはできませんので悪しからず」
「そ、そっか」
「すぐ近くにホテルもありますので、そちらへどうぞ」
ようやく体の震えが止まったらしい先輩が相変わらず震えている声で尋ねると、相変わらず冷めきっている声でとばりが答えた。玄関を抜けると生活に必要な最低限のものしかないのだと思わせられる程には何もない殺風景なリビングが広がっていた。広さも6畳あるかないかってくらいの広さだし、確かにここで3人寝泊りするのは難しそうだ。
「空港から結構近いんだね」
「そうですね。小さな町ですし、町中は徒歩でもひととおり回れます」
まあそうじゃなきゃ困るどころの問題じゃなさそうだしな。と俺がやりとりを見て考えていると、コートを脱いだとばりの服装が目に入った。白いブラウスに赤いリボンタイ、紺色のブレザー、チェック柄のプリーツスカート。これはもしかして――と思い、俺は彼女に尋ねた。
「制服?」
「はい。中学生ですし、破怪師としての仕事をしながらここの学校に通っています。まあ今日は貴方たちの為に欠席しましたが」
「そうか、なんかごめん」
「このようなことは慣れていますし問題ありません。破怪師としての道を選んだ以上、普通の学生生活を送れなくなることは覚悟していますので」
「そ、そうか……」
「ともかく、貴方が気にするようなことではありません」
おかっぱ頭で幼さが残る顔つきの少女のきっぱりとした言葉を聞き、この年でそんなに割り切れるのか、果たして割り切っていいのか、と俺は少し反応に困った。俺だって中学の頃には破怪師としての仕事をこなしていたが、それで学校に行けなくなったりしてたらもう少しキレていたと記憶している。というか今現在もムリムちゃんの配信が見れなくなったら内心ブチギレているし。
「と、ところでさ! 吸血鬼の魔怪も学生やってるって話聞いたよ!」
若干重くなってしまった雰囲気を打ち消すように、コートを着たままの先輩がクッションの上に座りながら抱きながらわざとらしい程に明るい声色で言った。
「ええ、そのようですが……」
「ですが?」
今まで淀みなく答えを返していたとばりが、突如言葉を詰まらせた。かのように見えたが軽く咳払いをした後、このような答えが返ってきた。
「その魔怪は現在行方をくらまし、消息不明となっています」
「えええ!?」
先輩がそれを聞いて慌てて俺のコートの袖を掴んだ。
「せっかくここまで来たのに! どどどどどうしよう!?」
「どうしようって俺に言われてもわかんないですよ」
「でもでも! 倒しに来たのにそもそも見つけられませんでしたじゃあ!」
「まあ……待つしかないんじゃないですか」
「待つっていつまで!? あたしこんな寒いクソ田舎にいたくないんだけど!」
「焦りすぎてめっちゃ失礼なこと言ってますよ」
それから先輩はでもでもでもでもと言い続け俺の身体を揺さぶり続けた。
「どちらが年上ですか?」
そんな光景を呆れた目つきで見ていたとばりにそう尋ねられたので俺は迷わず「こっち」とあわわと言いながら暴れている先輩に指をさし続けた。
「……そうですか。とにかく、何か情報がありましたら連絡しますのでしばらく観光でもしておいて下さい」
そしてとばりは、ため息をついた後、俺たちにそう言ったのだった。
「ねえ呆れられてない!?」
「だからちょっと落ち着け」
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