第5話

「すぅ……」

「やっと寝たか……」


 深夜1時になり、あるだのないだのと大騒ぎしていた先輩がようやく落ち着き、ベッドですやすやと寝息を立てて眠っていることを枕元で確認すると、俺は襖を閉じてテレビに映る女の子に向き直った。この至福の時間を堪能するために俺は破怪師としての活動を日々頑張っていると言っても過言ではない。


 そう。俺は今、繰夢ムリムちゃんの配信を見ているのである。ちなみに今日(既に日付は変わっているが)は他愛のない雑談配信となっている。それと一応先輩に配慮してヘッドホンをテレビに差してキンキン声を摂取している。


『普段力を隠してるキャラが、いざってときに全力を出すのってめちゃくちゃかっこいいよね~』

「えぇ!?」


 ニコっと笑いながら放たれたムリムちゃんの発言を聞き、俺は思わず声が出た。結構大きい声が出てしまったので慌てて口元を抑えたが、特に先輩が起きたとかの反応は無さそうだったので安心する。


『隠してないで最初から本気でやれよとも思うけどねw』

「はぁ……」


 しかし続けて放たれた言葉に俺は胸を痛めた。俺だってそうした方がいいのは重々承知している。だけど全力を出そうにも果たして出していいのかという躊躇いがあったりするのだから仕方ないだろう。それに全力を出したら俺の身体がどうなるか――。

 

『ちなみにあたしはいつでもどこでも本気だから!』


 知ってる。


『それじゃ、スパチャも読み終わったし今日はこれくらいにしておこうかなー。みんなおやすみ~おつむり~』

「おつむり」


 それからしばらくムリムちゃんはあれこれ語り、2時になる前に配信は終了した。


 それを見届けると、テレビの電源を切り、俺も寝るかと思ったけど既にベッドが先輩に占領されている事実に気づいた。


 まあいいか一緒に入れば。キングサイズのやつだしどうにでもなるだろなんて思いながら襖を開けようとしたら、スマホに通知が来ていることに気づいたので立ち止まって内容を確認する。また破怪師協会からかと思ったが、そうではなかった。


『来月のリメンバーオフ会の件、スパゲたんさんも参加されますよね?』


 と、ムリムちゃんのファン『リメンバー』仲間である『ドラマロ』さんからこのようなメッセージが送られていた。


『もちろん行かせて頂きます』


 破怪師としての任務がこの日と被らないことを祈りながら、俺はドラマロさんに迷わずそう返信した。


 スマホを閉じて襖を開けると、先輩の静かな寝息がかすかに聞こえてきた。仰向けになり、幸せそうな寝顔をしている。こっそり布団をめくるとパジャマがめくれて白いお腹がちらりと見えていたのでパジャマを戻してあげてから俺もベッドの上で横になる。


「行ってから考えるしかないか……」


 俺はこっそりとそう呟いてから布団を被り、先輩の肌の温もりを右肩に感じながら、目を閉じたのだった。

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