第7話 魔物の研究
「さてと、やりましょうか?皆さんよろしくお願いします。」
結が手術をする格好で周りにいるスタッフに声をかけていく。
「「「よろしくお願いします。」」」
「では、音声と動画の記録を開始してください。」
「はい。入りました。」
「わかりました。それでは仮称犬型の魔物の解剖を開始します。解剖責任者は夏川結になります。よろしくお願いします。」と音声が入るように結が声を張りながら目の前にある魔物の死骸を解剖を開始する。
「魔物の表面は、黒い毛と皮膚は黒に近い赤色、これは死亡後にうっ血しているあとですね。外傷は首を鋭利な物で切られたのみで頭部もきれい、胴体も血液はあまり期待できないわね。」
と魔物の表面をなぞりながら確認していく。
「では、内部を解剖します。メス。」
と助手役の男性から手術で使うメスを手渡される。
「では、腹側から切開していきます。…………駄目ね。魔物の皮膚が通常のメスは刃が入らないほど硬質です。触った感じだと通常の犬等と同じ感じですが、切れないですね。次は魔法を付与したメスで行きます。これならすっぱりと刃が入るわね。内臓等は通常の犬と同様の形態で器官も同じに見えます。」
と魔物を解剖しながら内蔵の状態や胃の内容物までを確認していき、魔物の解剖を進めていくが、特に目新しいものも無く解剖は終了した。
結は自分の仕事部屋に戻り、コーヒーを片手にパソコンのメールを開いていた。今見ているのは、防衛省からの協力要請を示したメールで、要約すると解剖した魔物のデータをください。と言うことを長々と書いているメールで、見ていてイラッとするメールではあるが、公開予定にしている解剖のデータを先に渡すだけで謝礼やら借りは作れるので、担当部門にデータを渡すように依頼した。あとは環境庁や農水省、内閣府からも文書は違えど同じくデータよこせのメールが来ていたので、これも担当部門に丸投げする。
そうこうしていると、また新しいメールが届いている。
今度は施設内からの報告のメールだ。
報告内容は魔物の血液やDNA等を調査した結果のメールだった。
結はこのメールを待っていたのだ。
「きたきた。血液の成分データは………血中エーテルの濃度がやはり高いくらいかな?魔物ならこれくらいにはなるわよね。………こっちがDNAの検査結果で……元は犬種。けど種類はバラバラ?血縁関係がない個体が複数いるわね?オスとメスの比率はほぼオス?メスは2頭だけ?血縁関係のあるのはこのオスとこっちのオス……親子関係かぁ……??身体の大きさはあんまり変わらず??参考にもならないというか野犬の群れよねこれ?」
(通常群れを作るなら強いオスの周りにメスの方が集まり数は多いはずだし、年齢が違うのに個の大きさは変わらないなんてどちらかが成獣であれば老犬か仔犬のはずだよね?ほんとに沙月が言ってた、誰かが意図的にやってるとかって言われてもこれは納得できるわね。何か共通する何かが出てくればいいんだけど………。)
結は、コーヒーを飲み終わったタイミングで、血液検査やDNAを調べた部門に電話にて連絡を入れ、メールをくれたことへの感謝を伝え、各個体に何か共通することが無いかを確認するための追加の調査を依頼する。
その連絡を切ったところで、再度電話が鳴り、すぐに出ると今度は施設の交換からで、防衛省から連絡が入っているとの事で、そのまま繋げてもらい、話を聞くと、今日の解剖データを、提供した部門からで、1頭だけ体格の違う個体がおりそれを確認と言うか、手に負えないので解剖して欲しいとの依頼が来た。結は、二つ返事で了承し、場所や迎えなどを確認すると今日は、帰れなさそうな時間になるのが確定したため、電話を切った後に、沙月へメールし、今日はこちらに泊まることを連絡すると、タイミングよく沙月は家に帰れているらしく、子供の事も任せてとメールが返ってきた。
家の事は沙月に任せ、解剖に使う機材などをスーツケースに詰めていき、準備をして、連絡から1時間程すると防衛省の迎えが来たとの連絡が来たので、移動しそのまま迎えの車に乗り込む。
車の中には2名乗っており、その内の1名が防衛省に運び込まれた個体の解剖の結果や内容などの説明を始め、それを聞いて、1時間程で自衛隊の駐屯地に到着した。
そのまま駐屯地内を車で走り、その中の平屋の建物の前で車が停車し、降りるように促され、結も降り、道具の入ったスーツケースを持ち建物の中へ入っていった。
中は医療などをする建物のようで、色々な薬品の匂いが微かに匂っていた。
そのまま更衣室のような場所に案内され、持ってきた解剖用の服装に着替え、持ってきた解剖道具を持ち、また別の部屋に案内された。
中に入るとそこは解剖が出来る手術室で、ライトに照らされ件の魔物が鎮座していた。
センターゲートに運び込まれた物と比べると一回りほど大きいが、首の辺りを破損している以外は無傷のように思えるが、解剖時に色々やってたのかな?という傷がアチラコチラについている。
「夏川先生。お願いいたします。」
「はい。分かりました。」
(と言ってもこの人たち、魔物だからって遠慮というか、配慮みたいなのはないのかな?こんな状態で解剖とか舐めてるわよね?)
結は、ここの職員に小言を言いたくなりそうになっているのを、深呼吸で抑え、気持ちを切り替えて、改めて魔物に対峙した。
手を合わせ冥福を祈りながら、これから解剖するという謝罪も込めて。
解剖が始まった。結は、一人のほうがやりやすいと補助を断り、必要なときのみ声を職員にかけ最低限のみ手伝いをしてもらった。
解剖自体は2時間もかからないくらいで終了し、結は早々に帰り支度を済ませようとしている。
魔物の遺体については、解剖の照査をするという事で防衛省がそのまま預かることになっており、結には感謝の言葉と、若干の謝礼金が後日センターゲートに払い込まれるくらいだった。
(まぁ解剖した際のデータは私の頭にも残ってるし遺体がこのあとどうなるかは気になるけど、仕方ないかな。)
結は、防衛省の車に乗りセンターゲートへ戻ってきて、時間も退勤時間を大きく過ぎていたが沙月が子供を迎えに行って帰ってきてるとメールが入っていたので、のんびりと帰り支度をしている。
(明日の予定も急ぐ物は入ってないし、明後日は休みだし、大丈夫かな?)
結は退勤し、家に戻ってきた。
「ただいま〜♪」と声を出して玄関を入ると、
「ママおかえり〜」
と言われ帰ってきたな〜って思いが湧いてきていた。
「心くんただいま〜美月ちゃんや沙月ママは?」
「おかえりなさい〜ここにいますよ〜♪」
と心を見ていて後ろにいる沙月や美月に気づかなかったようだ。
「ただいま〜」
と沙月と結の仕事が一段落し、家族団らんな生活に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます