第6話 一夜明け

沙月が血まみれになってから、4時間程経ち、空が明るくなり、日が昇るタイミングで、自衛隊、警察、消防等が隊列を組んで山へ入って行った。行き先は沙月が魔物たちを倒した場所だ。


「うわ〜。夜中に見たら腹の中身全部戻す自信あるわ。」と矢野二曹がつぶやく横で、町田一曹が嘔吐していた。

到着した場所には、魔物の死骸が積み上げられており、周辺は血のシャワーが降ったかのごとく木々を赤くしていた。

矢野は町田を他の隊員に任せ、警察に規制線の指示や自衛隊の同僚に魔物の死骸回収の指示を出していく。

粗方片付くと警察や消防にお願いし石灰等を撒き消毒をしていく。

矢野達が山を下りたのは日が沈みかけた時間になっていた。

回収した魔物は、専門の部隊が現場より搬出し、研究部門のある駐屯地や研究機関であるセンターゲートに運び入れていった。


先に隊舎に戻された沙月は、シャワーを服ごと浴び、血を落としてから、体を洗い、新しい作業服を着て、報告書を作成していた。

自身の報告書は完成し、あとは戻って来る小隊員からの報告書との調整をするだけになっていた。

少し手が空き、軽く食事をする為に、駐屯地内のコンビニへ行きパンなどを購入していると、後ろから声をかける男性が現れた。

「お疲れ様、卯花。」

沙月が振り向くとそこにいたのは立花大隊長がおり、軽く手をプラプラさせながら近づいてきた。

「お疲れ様です。大隊長。」

と沙月はパンなどを左手に持ち敬礼を返した。

「食事か?」

「はい。と言っても軽く食べようかな?位です。小隊の者もまだ現場対応中ですので……。」

「そうか……食べながらでいいから、少し話せるか?」

「はい。大丈夫ですが……食べながらですか?」

「世間話程度のことを話すだけだ。食べながらでも問題ないだろ?」

「その程度であれば……どちらでお話しを?」

「俺の官室でいいか?」

「分かりました。購入後同行いたします。」

沙月は、立花の後ろをコンビニの袋を持ってついて行き、大隊長室に入り応接用の席に座るように促されて、座りパンや飲み物を出し、食事を始めた。

「立花さん、お話とは?」

「今日、血まみれで帰ってきたそうじゃないか?何をしたら血まみれになるのかな?」

「魔物を素手で片付けまして、それで血まみれになりました。」

「……………卯花?」

立花は片手で両のこめかみをもみ抑えながら、困ったように沙月に問いかける。

「はい。」

「あのね、駐屯地内は大騒ぎになってたよ。あの卯花が血まみれで、ブルーシートの上に乗って帰ってきたってね。」

「そうなんですね〜。」と沙月はパンを食べながら聞いていた。

「まぁ、卯花だしなぁ〜。まぁ、遅滞なく報告上げてくれればいいし、何か問題あればすぐに言うしね。………で、血まみれにした魔物はどうだった?」

「う〜ん。ナイフは無理でした。柔らかい目や口の中を狙えば拳銃でも対応可でしたが、無理そうでしたので、素手に魔法を付与してエイヤ〜ってやりました。」

「それは血まみれになるわな。」

「あと、不自然に魔物の数が多かったです。全部で13頭いましたが全部が魔物というのは異常でしたね。」

「皮膚は硬くてナイフや拳銃では無理ね〜?それは警察でも対応できないよな〜。」

「あとは解剖してどういう結果が出るかですが、あの手の魔物が出ると、確実に警察は無理ですね。自衛隊が小銃持っていって何とかですが、当たれば対応出来るかな?ってのが報告としてはいいのかと思います。」

「そうか………。とりあえず報告書はそれでいいとして、あとは他の小隊長に引き継いで家帰れ。子供いるんだから、誰も文句は言わないから、もう少しセーブしてもいいんだぞ。」

「大隊長……ありがとうございます。引継ぎ一度帰らせていただきます。あと、今のところ仕事をセーブするのは考えていませんが、悠一さんが戻ってくれば、退役も考えてはいますよ〜。」

「………そうか。相楽君はどんな感じかね?」

「セレス様に聞いてはいますが、前よりはマシになっているそうなんですが、色々と悠一さんがやらかしているっぽいので……。」

「??その話聞いていいのか?やらかしてるとは?」

「早い話、封印前より何倍も強くなってるそうです。悠一さんも制御しようとしてるみたいですが、悠一さんのエーテルで、外の封印が壊れそうで、壊れたら何が起こるかわからないと言うか、最悪王国全体と他国巻き込むエーテルの大爆発が起こるかも?だそうです。」

「ダイナミックなことになってるね……。ちなみに王国ってどれくらいの大きさだっけ?」

「正確には分かりませんが、総面積で言うと日本より少し大きいですが、細長くないので、東京から大阪位の距離で正方形にしてもらえば良いくらいじゃないですかね?」

「デカいね?それと周りの国巻き込む大爆発って、地球で起こったら、地球全体にダメージ与えれるよね?」

「向こうの世界でも同じですよ。なので封印前より強化はしているそうですが、破られたとき余計に破壊力が増すかもしれないので、いっその事封印解除しようという話も出ていますが、悠一さんが是とするかが………と言うところです。」

「卯花の旦那は相変わらずスケールが違うね……。いい意味でも悪い意味でもね。」

「そうですね♪自慢の旦那様ですが会えないのが残念です。」

「惚気るねぇ〜。じゃあ早く帰って子供の顔も見てこい。」

「はい。では失礼いたします。」

沙月は退室し、別の小隊長に大隊長から引継ぐように指示があったことを伝え、情報を引継ぎ、帰り支度を済ませ家に戻っていった。


家に戻ってきたことを結にメールすると、今度は結が帰れない可能性があり、子供の迎えをお願いされ了承し、お迎えの時間まで2時間程あったので、部屋の掃除や洗濯をしていたらちょうど良い時間になったので、子供たちを迎えに行き、2日ぶりの子供との再会を果たすことになった。

沙月の顔を見た美月は沙月に走って飛び込むように抱きつき、心も後を追うように飛びついてきて、少し動きづらい状態になったが、すぐに車に乗り込み家に帰ってゆっくりしようと伝えると、すぐに運転しやすいように離してくれる子供たちに感心しながら、家路を急ぎ、家につくなり車から家まで抱っこをせがまれ、家で着替えるとずっと背中や足にくっついて離れないといった甘えん坊2人を相手にしながら、夕食を食べ、お風呂に入り、子供たちが疲れて眠るまでしっかり相手をして、沙月自身も一緒に就寝していた。


翌朝になり、いつもの制服を身に着け、子供たちを保育園に送り、結はいないがいつもの日常を送っていた。




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