第40話 もう一度言うよ。
松岡所長より連絡があり、俺の身辺警護を担当する者が決まったので、顔合わせがしたいとのことで、一緒に住むことになる者も、連れてきてほしいとのことで、沙月さんと一緒に松岡所長の指定した部屋に行っている。
もう一人の一緒に住む結は、入居予定の家の準備に出かけており、留守にしていた。
指定された部屋に着き、部屋の扉に付いているインターホンを押し、
「お疲れ様です。相楽です。」と告げると、扉が開き、そのまま入室する。
「失礼します。」「失礼します〜。」と2人で入り、中を見ると松岡所長一人だけ中に居た。
「相楽君、急に呼んですまなかったね〜。まぁかけたまえ。」そう促され、俺と沙月さんは、部屋の中にある、長方形の6人がけ机の松岡所長が座っている対面に並んで座った。
「今日来てもらったのは、連絡した通り、身辺警護の人員が正式に許可が降りたので、紹介しようと思ってだな……。」
「松岡所長ありがとうございます。」
「でだ、早速紹介したいのだが、良いかな?」
(いいかな?、何故聞かれた?)
「はい…、お願いします。」
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(?あれ?部屋の外から来るのかな?)
「相楽悠一さん。」
いつものほんわかな言葉遣いと違い、声にハリがあり、いつもより少し低い声で俺の名を呼んでいる。その声に俺は、何故こんな声で俺が呼ばれているのかが理解できず、ただその声の主を見つめることしか出来なかった。
「相楽悠一さん、貴方の身辺警護任務を拝命しております………………
卯花沙月曹長であります。」
「えっ……………………沙月さん?」
隣で席から立ち上がり、一歩引いた所で、直立で敬礼しているの女性がいた。
いつもの包みこんでくれる様な笑顔ではなく。口を真一文字にし、目もいつもと目つきが違う。けど、いつも俺を見つめてくれる瞳は変わらない女性。
沙月さんが敬礼をし、俺の警護をしていると言っている。
「沙月さん…が……けいご?」
俺が沙月さんの名乗りに戸惑っていると、
「あ〜、相楽君、卯花曹長についてだか説明しても良いかな?
びっくりさせてしまい、申し訳ない。これはね、政治的な理由も含み、曹長も君に明かせなかったんだ。その点も含め、説明させてもらっても良いかな?」
「わかりま、し、た…。」
「では、説明しよう……その前に曹長、元の席に座りたまえ。」
「はい。失礼します。」
そういって、沙月さんが俺の横に座り直したが、顔には表情が無いまま、ただ前を見て座っていた。
「まず、曹長……卯花君だが、以前より…それこそ相楽君が目を覚ましていない時から、身辺警護の任務に就いている。」
「はぁ?どういうことですか?」
「君は、エーテルを何故か体内に宿し、それが血液を検査した際に分かった。と聞いていたと思うのだか、間違いないかな?」
「はい。そう夏川先生より、伺っています。」
「そう。君が入院していた病院から、入院している患者の血液検査にて、検査数値の異常だからと、詳しい検査を依頼されたのが、事の始まりだった。
病院に聞き取りをしたら、その血液は2年前…今からだと4年前から入院している患者の血液で、入院当初から血液は異常な数値を記録していたが、成分を調べても分からなかったのだが、今から3年前にとある血液サンプルが日本国内の一部の研究機関にて検査をされていた。それにはエーテルを含む、地球上の人間と違う血液サンプル…フローティア王国の人間から採取された血液だったのだが、その血液サンプルのデータを、相楽君がいた病院の血液を検査している機関が検査資料として持っていてね。その機関が、相楽君の血液の中にサンプルとよく似た特異な反応があると、私達の研究部門へ報告してきたんだ。
私達も、その血液を調べた時は、びっくりしたが、自分たちで判断出来る領分を超えていてね。国へ報告する事となった。それと同時に私達からフローティア王国にも、頂いた血液とよく似た日本人の血液があることを報告してね、それでフローティア王国で確認してもらったところ、この血液の持ち主はエーテルを保持しているとの報告があり、日本国としては重要案件となったんだ。
…だがね、それの事を他国に気づかれる可能性があり、もしも分かった場合は、相楽君の身に危険が差し迫る事となってしまい、日本国は君の身辺を保護しなければいけないこととなった。
その時に国……というか自衛隊から、看護資格を持ち、かつ警護も出来る人員として、卯花曹長が着任したんだ。
卯花曹長がいたことによって、うちからも結君を安心して君の検査に送り出せたから、こちらとしても国に感謝をしていたんだ。」
「俺が寝ている間にそんな大事になっていたんですね。」
「ああ、本当に大事だし、それが分かったから、君の身体を直せることになったとも言えるかな?」
「それは…?」
「万能治療薬。」
「あっ!?エーテルを持っていないと治療薬が使えず、身体が直せなかったんですね。」
「まぁそうだね。本当は、結君が一緒に居る時に話せばよかったが、それはまた今度、今は曹長の話だったね。
治療後は、目を覚ました相楽君の方がよく知っているだろうしね。」
「まぁそうですね。」
と告げ、改めて沙月さんを見た。
沙月さんは身動きをせずに、椅子に座り、前方を直視していて、何も語ろうともしなかった。
「卯花曹長に付いては、相楽君はどう思っているのかね?」
「俺ですか?俺は・・・・・・」
俺は、もう一度沙月さんの顔を見ると、先ほどと違い、怖がっているのか不安そうな顔をしている。
(沙月さん……俺は、)
「俺は、どうとも思っていません。
沙月…は俺の最愛の妻になる人です。その妻が実は自衛隊員でしたと言われても、だからどうしたの?なんです。だから、」
俺は、沙月さんの顔を直視し、沙月さんが目を合わせながら、
「だからどうした?
警護で来たからなに?
仕事だからなに?
任務だからなに?
それでも俺は、沙月を好きな事は変わりないし、これからも愛し続けるよ。」
と言うと。
沙月さんはビックリしていた。
だが、少しすると
俺が言ったことを理解したのか、
涙目になり…、
いつもの沙月さんの顔に戻り…、
プロポーズをした時のように泣き始めた。
「相楽君……私は、席を離れるから2人でゆっくり話しなさい。」
松岡所長が笑顔で退室していった。
静かな部屋の中、
その中に少しの泣き声と鼻をすする音が聞こえている。
「沙月さん。いや、沙月。こっち見てくれますか?」
俺は、沙月さんと隣り合って座っていたのを、椅子ごと身体の向きを変え、泣いている沙月さんの横に正面を向く形で座っている。
それに合わせて沙月さんが、俯きながらも俺の方を向いた。
(今思えば、沙月さんが、俺を一人で抱きかかえたりしているのも、普通は無理だよな〜いくら寝たきりで体重が40キロ台だったとはいえ、最近50キロは超えてたのにお姫様抱っこされてたしな。)
俺が沙月さんを見て笑顔になっていると、
「悠一さん、なんで笑っているですか〜?怒らないんですか〜?」
「怒る?なんで俺が沙月さんに怒るの?なにか悪いことをしたのかな?」
「だって、私本当のことを隠してたんですよ〜。私は、あなたの事を騙していたんですよ、なのになんで笑っているですか!?」
泣きながら俺のために怒っている沙月さんを見て、俺は沙月さんに椅子ごと近づき、自分の膝が沙月さんの太ももに当たる位の距離に近づいて、沙月さんの背中と膝のあたりに両手を入れて、お姫様抱っこをするような形で、自分の膝の上に横抱きで沙月さんを抱えた。
「沙月・・・俺が、目覚めてからまだそんなに立っていないけどね。
プロポーズした時にも言ったけど、
もう一度言うよ。
沙月がいいんだ、
沙月でなければいけないんだ。
俺は、沙月と……結がいたから今まで生きてこれた。
沙月が寝ていた俺のことを守ってくれてたんだろ?
お礼を言わなければいけないのに、
なんで怒らないといけないんだよ。
俺は沙月がいないとだめなんだよ。
仕事とか関係なく俺とずっと一緒に居てくれませんか?」
「なんで…?
なんで、そんな事言うんですか!?
私があなたを騙していて、
これから任務のためなら裏切るかも、
それこそ殺さなければいけなくなるかも知れないのに。
私に一番好きな人を殺させるんですか!?」
「沙月……。ごめん。
先に謝っておくね。
俺を殺せとか沙月が苦しむ任務なんて聞かなくていい、
もしそんな任務なんてしてくるなら、
そんな事を言ってくるクソな国は
捨てて、一緒に逃げよう。
俺は殺されないし…
沙月と離れ離れになんてならない。
まぁそれが来るのは寿命で死ぬ時かもしれないけどな。
それに俺を好きでいてくれるのなら、俺はそれに答える。
だからもう一度言うよ。
好きだ沙月、俺と結婚してください。」
と横抱きにしている沙月を強く抱きしめる。
沙月が俺の顔を見つめながら、
「悠一さん。
私はずっとついていきますよ。」
「あぁ。ついてきてください。」
「私はすごく重い女になんですよ?」
「おもいと感じないよ。」
「私は別れてと言われても
絶対ついていきますよ。」
「別れるとか、言うわけ無いよ。
俺も別れてと言われても無理だからな」
「じゃあ〜一生ついていきますよ〜
いいんですね〜」
「うん。一生一緒にいこう。」
「あ〜でも、お嫁さんを増やすなら
先に相談してくださいね〜。」
「またそれ言うの!?」
「結さんもいますし、まだ増えそうなので、言いますよ〜。」
「結は沙月と、一緒に幸せにするから大丈夫。他は知らない。」
「本当ですか〜?ちゃんと結さんも一緒に幸せにしてくださいね〜」
「うん。幸せにするよ。」
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