第四章 お菓子のお披露目会!

「さて、これが私のお勧めの新感触のお菓子ですわ!」


 皆の前に配り終えたお菓子を前に、私は高々と声に出した。あの砂糖をこれでもかと固めたガリガリと噛み砕く菓子と違って、揺すれば、プルリン!と小刻みに揺れる、可愛らしいお菓子。

 既に匂いが部屋に充満しているので、皆が生唾を飲み込んで、私の合図を待っている。


「では、お召し上がりくださいな!」


 そして私の合図を切っ掛けに、お父様なんか電光石火の如き動きを見せる。


「…おかわりはありませんわよ?味わって試食して下さいまし」

「…っ!?それを早く言わんか!……既に食べてしまったわ……」


 段々と消え入りそうな声で、しょぼくれていく父は、そのまま項垂れてしまった。


「…あちらの甘いものは、いかがでしたか?」


 お父様の様子から、プリンを気に入ったのは分ったが、感想は直接聞いてみたい。


「甘すぎず、固くない。なにより優しい甘さで、口の中をすぐに通り過ぎてしまう。喉通りも滑らかでツルンっとなって……気づけば、食べ終わっていた」

「ふふっ!そうなのですよ。柔らかくてすぐに無くなってしまうのが難点ですわ。このお菓子の砂糖は、普通の砂糖と違うことはご存知ですよね?」

「…あぁ。この試作品は、その砂糖を使って作られているのだろう?こちらでは未確認の作物から採れる砂糖…だったか?」


 父の言葉に、母はギョッとしている。あれ?言ってなかったっけ?……調味料を販売するって言っただけだったかな、うん。これは、後で問い詰められそうである、あはは。


「はい。あの歯が割れそうなほど固いあれは、お菓子とは呼べません。見栄が強い人種の思想が現れた創作料理に過ぎません」

「見栄の創作料理って…」


 根も葉もない言い方に、母は少し絶句している。だって、本当じゃん?


「私はこれだけたくさんの砂糖を使った料理を、他人にお裾分け出来る気配りの優しい人なのよ…という周りへのアピールです。とにかく、砂糖の塊はこれから食べないでくださいね。身体の健康に悪いですから」


 隣領だか知らないけど、砂糖の塊を送ってくる御婦人。あの人は、他人に親切な自分に酔っているだけである。あれを見栄と言わずして、なんという。

 

「元より、あれは食べるより鑑賞用だな」

「えぇ、そうね。隣領の方も、全て食べるとは思っていないわ…というか、食べれたものではないわ。食べるより、含むというのが正しいわね」


 母の言葉に、口に含む?…と、首を捻る。容易に溶ける塊じゃないだろ、あれ。口に含む大きさに削る令嬢や夫人の姿を想像して、チベスナ顔になる。


「鑑賞用というのも分かりませんが、アレはご遠慮下さい」

 

 とりあえず、虫歯とか糖尿病とかの病気対策の為に、口を濁さず断言すれば…。


「あら…それじゃ、我が家でお茶会をする際には、どのお菓子を出せばいいのかしら?」


 すっとぼけたように、チラチラこちらを見なくても、ちゃんと代用品を考えますわよ、お母様。


「……いくつかのお菓子のレシピを見繕います。お母様は、我が家専門の菓子職人を見つけて下さい。お菓子は、商業ギルドのレシピ登録で販売するつもりですから、外部に漏らさない方、あるいは魔法契約して下さる方になさって下さい。その方に、レシピをお伝えしますわ」

「分かったわ」

 

 あぁ…花が咲きほころぶほど喜ばれると、こそばゆいわ。身体がむずむずするぅ。そんな私の心情などお構いなしに、母の問い詰めが始まった。


「それより未知の作物とは、どういうことかしら?私はなにも聞いてませんよ?」

「私も今日聞いたばかりだったんだ、ファルチェ」

「ではカティアは、その作物を育てる為に、裏庭の使用許可を欲しがったのね?」

「あまり目立たず、ある程度の広さがある裏庭は、作物栽培や加工の実験に適していますから。既に、神々の百貨店で、温室や種や栄養剤などを購入済みですわ」

「……そこまで準備しているのね。あなた、カティア専用の土地を選定しましょう。とりあえずの用途は農地だけど…絶対必要になる日が来るわ」

「そうだな……シルベシタ、我が家が所持している土地で、農地に合いそうな場所の候補を纏めておいてくれ」

「畏まりました」



「それにしても、おかわりはないのよね?」


 そう言って、私の手元をチラ見する母に、私は慌てて一匙救い口に含んだ。


「…ないですね!」


 うん、匂い通り美味しく出来ている。私の行動を恨めしく見つめる母に、私は内心苦笑いだった。

 そんな母の反対に、ラフにぃ様はなにも発言しなかったけど、お菓子の容器を抱えて、満足げに何処かにトリップしていたので、美味しかったのは間違いないだろう。

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