厨房へのご挨拶②
「はぁ、酷い目にあった…」
眩い光で目が潰れるかと思ったよ。
「それは、皆様のセリフですよ、お嬢様」
「…あっ、悪かったわと思っているわ。ごめんなさい」
シュン…と申し訳無さそうに俯けば、皆がそれぞれに笑って許してくれた。
「元はといえば、お父様が皆の治療用のポーションを置いてないから…」
往生際の悪い私の心の根っこは、この世界の事情を理解はしていても、納得はしていない。
むぅ…と少しだけ不貞腐れれば、
「お嬢様、治癒師の方を在留していただいているだけでも、領都は運がいいのですよ」
と、アリサに窘められた。それに賛同するように、周囲から口々にお礼を伝える言葉が届く。
「俺なんか、娘の風邪を知った旦那様が、治癒師様に往診を頼んでくださったんでさ!お陰で、処方された薬を飲んで全快でさぁ!」
「俺じゃなくて、私だろ!?でも、それを言うなら、私は、床を滑って足を痛めた時に、直ぐに治療を施してくださったぞ!」
「そりゃ、ドジ踏んだお前がいけねぇ!」
「よく言うよ!?お前だって、滑ってたじゃないか!」
「「「…わはははっ!?」」」
「仲が良いのね、この厨房の料理人の方たちは」
「仲の良さは、うちの取り柄ですね。毎日、この明るさに助けられていますよ」
眩しそうに仲間を見るグラントに、私はそうだった!と腕の具合を聞いてみた。
「グラント!…腕の具合はどう?指をグーパーしたり、手首を回してみて、どこか引っかかりを感じたりしないかしら?」
「……大丈夫ですよ、お嬢様。特に不都合な感覚はありません」
「…そう。念の為、鑑定で確認させていただける?」
「よろしくお願い致します」
名前 グラント
年齢 31
所属 マレント王国ガーディア辺境伯領
種族 人族
職業 料理人
魔力 58
魔法属性 火
体力 73
運 42
スキル 調理 解体 短剣 礼儀作法 生活魔法
ユニークスキル 無し
称号 カティアお嬢様の患者第一号
状態異常 良好
「…うん。状態異常も良好で問題ないわね!治療終了よ!これで調理仕事に参加しても、なんら問題ないわね?」
「…っ!はい!ありがとうございます!」
ガバっと勢いよく下げられた頭に、私はヨシヨシとしてやる…別にいつも私がされてるからじゃないからね?だって、下げられた頭が、ちょうど目の前にあるんだもの!
「とりあえず、治癒師の方の活躍は把握したわ。でもやっぱり、緊急時にポーションに頼れないって言うのは、痛いよね」
「…今の領地のポーションは、潤沢にあるわけではないのです。薬草の素材も限られている高級品ですし。ポーションを作成出来る薬師の数も少ないのです。そしてポーションが使用される場所は、優先順の高い場所から配分される決まりになっています…お気持ちはお察ししますが、ご理解下さいませ」
「はぁ…ないものをごねても、今は仕方ないわね」
(やっぱりおにぃ様のスキルは画期的だわ。美容だけでなく、きっと薬でも似たような物も作れる筈。早く形にして稼働させないと。そうすれば、今以上に必要としている人々へ届けることができるわ!)
(問題は、薬師ギルドなどのポーション販売形態がどうなっているのか。面倒な独占販売とかはないと思い…テイマーは薬師じゃない。ならば、スライムが作れるかもしれない薬は、ポーションじゃない?でも、効き目はあり?……スライムがポーション(仮)を確実に作れるのか、ヴァリー様にお聞きしたいわ。父に話すときまでに詳しく聞きたいし、今日のおやつで商業ギルド登録にお父様の承諾は確かなものになるだろうし…教会に行けば、会えるわよね?明日伺おう)
ニヤァ…と私の悪い顔が覗きかける。
「お嬢様、顔、顔!」
「んんっ!?……アリサ、明日の午前中は、教会に向かいます。それと、今日のおやつの結果次第では商業ギルドにも……手配を頼めるかしら?」
「畏まりました。それにしましても、お嬢様はいつヒールと診断を覚えましたか?」
「え?診断ってなに?ヒールはかすり傷をナオスのにちょこちょこ使ってたけど、骨折の中等度の怪我は初めてで…力加減を間違えちゃった。でも診断って?私は、鑑定で見ただけだけど…」
「…鑑定の派生スキルに診断がございます。まさか初回から生えるとは…流石お嬢様でございます」
「ははは、そうなの?ありがとう」
さすが経験値十倍という
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