第三章 十一話


「おにぃ様、テイムスキル持ってますの!?では、スライムを育てましょう!私の聖属性の魔力を合わせれば、化粧水も作れますし!私、近い内に商会を立ち上げる予定ですの!あっ…明日の面会で、お父様から許可をもぎ取るまで、本決りじゃないんですけど…将来は、絶対に領の金策にも繋がりますわ!」


 ランランと瞳を輝かせて、グイグイと来る妹は、実に楽しそうだ。僕があれほど悩み苦しんでいたのが、馬鹿らしいと思えるぐらいに。


「僕はスキルを活かすことが出来る、とても恵まれた立場だ。実際には、スキルがテイム一つしか授かれなくて、日雇い労働の職にしか付けない者も多いんだ」

「なんですって!?……もしやその方たちは、スラムにいらっしゃるなんてこと『そうだよ』…oh shit!」


 こちらで令嬢として生まれた私には、口から出せないお言葉を、異界語英語で表させて頂いた。


「現在は知識が廃れてしまっているせいか、テイムスキルは授かった瞬間に絶望してしまうゴミスキル…んんっ!人生終了厄介なスキルとして扱われてるんだ。どこかの雇用主が、『役立たずスキルを雇うのは縁起が悪い』と言い始めたのを発端に、テイムスキル持ちは、嫌煙され始めたのが始まりらしい」 

「…なんって意地の悪い商売人かしら!?」


 働けない環境だけじゃなくて、スキル差別の就職難かよ!そんな状態になっているなんて、微塵も知らなかった!まぁ5歳児のご令嬢だから、知らなくて当然だけど。これは色んな意味で、生物を司る神・ヴァンリー様が焦るのもしょうがないよ。

 あれからアン様の連絡はないけど、あまりヴァンリー様がお説教されてないといいけど。


「…でもそういうことでしたら、テイムスキル持ちの方々は、フリーの方が溢れているのですわ!」

「フリーってなに?」

「働き先、または所属先を持たない人たちのことですわ!」

「たしかに…というか、持てないというか…」


 兄が、なにか小声でブツブツ言っている。


「実は、炊き出しの代わりを考えていて…候補に学校…教育施設を挙げていたんですけど……この際ですわ!この本を真似て、教科書を作りましょう!」

「教科書?」

「こちらでは、指南書と言えば分かりやすいでしょうか?」

「指南書…あぁ、分かり易いよ!でも、そんなもの作って……まさか」


 兄の顔色は、段々と蒼白になっていく。だが私には、そんなものお構いなしだ。私の目指す近道が、こんな所に転がっているんだ!目を付けないわけがない。


「スライムテイマーの養成所を作りましょう!もちろん、基礎の勉学を教育施設で修めてからですけど!その後の就業を目指した養成所ですわ!そして、十分な成果を残した成績優秀者は好条件で雇うのです!もちろん普通に卒業した人たちも雇いますけど、こうやってハードル目的上げ定めると、皆さん必死に頑張ってくださいますのよ?きっと、創世神アン様が望む世界への大きな一歩になりますわ!」

「それはそうかも知れないけど…いきなり養成所だなんて…第一、就業を目指した学園なんて聞いたことないよ」

 

 今までの常識に囚われているおにぃ様は、少し躊躇していますが、そんなもの、糞食らえだ!


「あら、なければ作ればよいだけですわ」

「作ればいいだけって…箱だけ作っても、中身がなければ意味ないよ…」


 未だにショボンとする兄は、案外酷いことを宣うな。後ろ向きなのもいい加減にしたまえ。


「先ほども言いましたが、明日、お父様との面会を控えてますの。議題は、トイレ設置と衛生講座と商会の3つのつもりでしたが……この際ですから、お兄様にも参加していただきたいですわ」

「へ?僕がかい!?」


 自分も参加するとは思っていなかった兄は、素っ頓狂な声を上げて、自身を指差す。


「もちろん、無理にとはいいません。今日の明日では、おにぃ様にも予定はあるでしょうし。明日の議題でも、私はテイムスキルについては、触りに触れるだけになりますしね」

「触り…要点のみを伝えるんだね?」

「えぇ…。お母様との炊き出しから始まった課題が、こんな大事になるなんて思いませんでしたけど。おにぃ様には、実際に『美容術』の本通りに実証をお願いしたいんです。スライムと契約して、『食事鑑定』というテイム派生スキルの確認をして頂きたいんですの。ですが今回は、準備も手配も、何もかも時間がありませんから」

「僕という実証例を作って、教育施設や養成所のことで、お父様を説得する気だね?」


 私は兄の言葉に、満面の笑みを浮かべ頷く。さすがおにぃ様、頭のキレがいい子は大好きだ。

 まぁ、実例を作ってお父様を説得するだけの役目と考えているおにぃ様には悪いが、目的はまだある。


 多分養成所への入学を躊躇うテイマーの皆様への、お手本好例役にするに決まってるじゃないですか!私は(まだまだ甘いですな、おにぃ様)と思いながら、似非作り笑いをする。


「もちろんですわ!おにぃ様を使うようで、少し気が引けますけど……前世では、『立っている者なら親でも使え』という言葉がありましたの。意味としては、忙しい時は、手の空いている者なら誰でも使っていい…という意味ですけど。これからの私は、トイレや商会や護衛騎士の選考などすることが多くて、少し忙しくなりそうですの。もちろん、商会で、教育施設建設の金策が第一ですけど、その建設には、おにぃ様の協力が必要不可欠ですの!」

「……まずは、草原に行ったり、森に行ったりする許可からだね」

「道のりは長いですわね」


 ラファエルおにぃ様の表情に、もう憂いさは微塵もない。決意を決めて、前を見る男の表情だ。だが森に入るには、なにがあるか分からないから、万全の準備、備えが必要だ。特に兄は嫡子。護衛騎士の選抜から始まるだろう。


 しかしなんだろう。さっきから、アリサとミリー達護衛組がこっちを胡散臭そうに見ているのは…。


「…詐欺……」

「ラファエル様が犠牲…」

「次の標的は…」


 こらこらこら!なにを人聞きの悪い想像をしているんだ!…あれ好例役は悪企みとは違う…必要な尊い犠牲って言うのよ!って、私もなに言い訳してるんだか……はぁ。


「あぁ、神よ。テイ厶スキルに感謝致します。そして、カティアを妹にしてくれてありがとうございます」


 神に祈る兄のいつもと違う一面を見れて、仲が縮まったような気がする。そして、相変わらずの天使さである。

 

 何故かアリサ含む三人衆は、哀れみを含んだ目でおにぃ様を見ていたけど、そんなことは、知ったこっちないのである。


 でもこれで、未だ見ぬ商会の美容部門(仮)を、将来兄に全振り出来るかもしれないという副産物に、私は内心で笑いが止まらなかった。



 ☆ストック切れの為、不定期更新となります。ご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願い致します。


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