第三章 十話
「はぁ、昨日は最悪だった。今日は休養でお勉強はないし、本の続きを読もう」
心配性なお父様の命で、ベッドから出してもらえない私は、大人しく読書の続きを始めた。アン様は身体に負荷がかかるって言ってたけど、私は、身体のダルさを少しだけ感じるくらいだ。
「カティア…いるかい?」
トントントンっと叩かれるノック音と共に聞こえた声。おにぃ様の登場は、久しぶりな気がするな。
「…ラフにぃ様?」
読んでいた本から視線を外して、扉に向かって本人の名を呼ぶ。
「そうだよ…入ってもいいかな?」
「もちろんです…アリサ」
「はい、お嬢様」
傍らに控えていたアリサに呼びかければ、扉を開けに向かってくれた。ちなみに今日の護衛メンバーは、エイリックを除く3人である。ディランは外で、中に女性組が護衛中である。
「体調はどうだい?」
「特に変化はありませんわ。少しダルいだけですから」
「あまり大事がなくて良かったよ。スキルによる身体への魔力負荷は、シャレにならないんだからね!……おや?なにか本を読んでいたのかい?」
プンスコッ!と、頭から湯気が出そうな勢いで諭してくる兄に、私は首を小さく引っ込める。
でも兄は、本が大好きなのだ。既に兄の視線は、真新しい本に向かっていた。怒りが胡散してくれて助かった。私は胸を撫で下ろしながら、首を傾げるラフにぃ様の目の前にまで本を掲げた。
「神が極めし美容術?…僕の見たことがない本だし、凄い本名だね」
「そうですわ!これは、私が神々の百貨店で購入した神の著書ですの!」
「……神が書いた本?」
本が大好きなおにぃ様の瞳は、キラッキラである。まぁ、神の書いた本なんて、普通なら読める機会なんてないもんね。近所で、推しに出会えるくらいの奇跡である。そう思えば、気持ちがわからなくもない。
「……読みますか?」
「いいのかい!?」
おぉう、えらいつんのめりようだね、おにぃ様。ベッドに座る私に身を寄せるから、顔が近い近い。
「面白い本か分から『それは人それぞれさ!早く読んでみようよ!』…そうですわね。私は三章まで読んでますから、そこまではおにぃ様がどうぞ」
「ありがとう」
とってもワクワクしたおにぃ様は、普段の落ち着いた様子とは違う年相応さが見られます。やっぱり、好きなものは嬉しいですよね!…ということで、昨日私が読んだ『神が極めし美容術』を、おにぃ様は真剣な表情で読んでいます。
「…………」
「知ら…い『え?』…なぜ私は、こにょ…っ!?んんっ…この知識を知らっ…ないんだ!!ふふ、ふふふふふ………」
「……おにぃ様?」
怒りに震える…と言ったほうがいいのかな?怒りに震えて喉がつっかえ…舌が回っていないようだ。おにぃ様、どうしたんだろう?眉が釣り上がるような、眼差しがキツい印象だ。彼には、とてもお世話になっている。特に
彼がなにかを抱えているなら、私は力になりたい。
「…カティア、続きを一緒に読もうか?」
ハッと我に返ったおにぃ様は、頬を赤く染めながらも、歪んだ表情をしていて…少しだけ疲労が感じられた。
「…おにぃ様、顔色が悪いですわ。休まなくて大丈夫ですか?」
「僕は、これの続きを読まなくちゃいけないんだ。一緒に付き合ってくれるかい?」
「…っ!はい、付き合いましゅ!」
あっ、噛んじゃった。仕方ないよね?憂いを含んだ薄幸の美少年が、追い詰めたような顔をして、私にお願いしてきたんだもん!全力で同意しかないじゃないか!気が競るのも、無理はないというもの!!
4.スライムの属性・特性の在り方
『食べるもので属性が決まるスライムですが、好みの雑草を食べさせて成長したスライムは、人々の生活に役立つ特性を得るのです。スライムは、人々の生活と共にある存在として、神に作られた魔物です』
5.特性の
『スライムは、雑草を食して得た特性で、抽出する液体の内容が変わります』
「ん?液?」
スライムがなんでも溶かすのは知っているが、それは粘膜だ。液とはなんぞや?
『例えば、三章の例に出した
〈例 名前 雑草
特性 ツルン成分保有〉は、保湿成分のある液体で、聖属性の魔力を注ぎ淡く光れば、ツルツルお肌の化粧水の出来上がりです。瓶に入れて保管しましょう』
「「えぇぇ~!?」」
私たちは、思わぬ美容術の正体に驚きの声を上げた。
「取り敢えず、読み進めよう」
「はい、おにぃ様」
やはり、おにぃ様の表情は真剣そのもの。この後に記されていたスライムの飼育方法など、順番に読んでいき、解説は最後を迎える……ページはまだまだあるけどね。
『最後に……スライムは、神の予想を遥かに超えて最底辺な貧弱さでした。今は古代遺跡が残る時代のあるゆる人族たちは、私達から知恵を得て、スライムをテイムして育てました。しかし、魔法や魔道具の便利さに気付いた人族のほとんどが、そちらに走ってしまいました。
現在、たまにいる
本来は、人間との共存を目的として神に創られた魔物です。現在のスライムの認識は、そこらに転がっている小石より少し価値がある魔石程度。いわゆるお小遣い稼ぎの手段です。
でも本当は、無限の可能性を秘めた魔物なのです。育て方次第では、ニキビやシミやシワの悩みとおさらばした肌生活が送れるだけでなく、人族の暮らしに根ざした様々な道具を生み出す
美容術の本なので、例として挙げるならば、髪のゴワつき、フケ・痒みなどもおさらばのシャンプーも作れます。スライムの有用性は、この美容術本に関わらず、人々の生活に密着するように創っています。例えば、防寒性の布や食料保管・保存の在り方。それ以外にも、スライムを上手く育て有用出来れば、人々の生活に根づき、今の彼らの生活は、一気に革新が巻き起こることでしょう』
まぁ、大まかに読めば大事な部分はこんな感じだった。後は特性ごとの、美容術のレシピがいっぱい載っていた。美容でこれだと、生活に関する道具だとどんな分厚さだ?……ブルッ。ちなみに地球だと、暑さ4メートル超えの本があるそうだ…どうやって読むんだよ!?あまりに分厚過ぎるのも考えものである。
「……僕は、この本に…いや、カティアに出会えたことを感謝しなくてはいけない」
兄が持つ本は少しだけ震えていて、しかも俯いていて、表情が見えなかった。
「ラフおにぃ様?」
私は兄の様子がおかしいのを心配して、おにぃ様を覗きこんだ。
「僕のスキルの一つは、テイムなんだ」
突然のおにぃ様の告白に、私は喜色満面の笑顔を浮かべてしまった。さっきまでの兄とは正反対の表情だったから、私の顔を見た兄は、固まってしまったよ。
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