第三章 九話

『あっ!僕の本が!?』

「……そうじゃない。そうじゃないでしょ!?貴方は一体誰なのよ!?」


 私の奇声に、ビクッと身体を揺らしていたアリサは、すぐさま立ち直って、床に落ちてしまった本を拾って渡してくれた。


「ありがとう、アリサ。さっきはびっくりしたでしょう?ごめんなさいね」

「確かにびっくりしましたが、大丈夫です。それにしても、突然大声を上げるなんて…その本に、なにか仕掛けでもありましたか?」

「いや…なんか頭の中に……『中に?』…」


 これアレだよね。前世でもあったじゃん。「突然神の声が聞こえた」とかいうヤバいヤツ。こっちは、神様が身近だから…大丈夫だよね?現にアン様と会って会話したのは、アリサも知ってるし。


「突然頭の中で、知らない男の子の声がしたのよ」

「…まぁ、それで、あの声なんですね。さぞかしびっくりしたでしょう」


 よしよしと頭を撫でられた………アリサは、私の中身の年齢知ってるよね?


『ちょっと!いつまで無視るのさ!?』

『やめなさい、ヴァリー!突然話しかけたらびっくりするに決まってるでしょ!?カティアは、アン様以外とは、誰も対面してないんだから!』 

『だからだよ!アン様は、適当な理由をつけて、僕たちと接触すらさせないじゃないか!一体、いつ会わせてくれるっていうのさ!?…仕方ないから、さっきの答えの続きから行くよ?しかも人間は、手間がかかるスライムより、便利な魔導具や魔法に惹かれて、その研究にのめり込んでいったんだ。だから忘れ去られるのに、時間はかからなかったよ。古代は、今より遥かに文明水準は高かったのに…誰が衰退するなんて思う?』


 いやいや、仕方ないから…じゃない。なに普通に話を続けてるの!?こっちのペースは、お構いなし?頭の中で喧嘩は止めろ。頭の中で、キンキン響いて煩い。

 少年を嗜める若い女性の声も聞こえるが、少年にはあまり効いていない。しかし最後の声は、とても悲しそうだ。いったい何故話しかけてきたのか、質問をしてみるのも手だろう。


「なにか御用でしょうか?急に話しかけられると、ビックリしてしまいますし、頭の中で喧嘩はやめて下さい」

『…っ、ごめんなさい!ほら、ヴァンも謝りなさい!』

『うっ…ごめん。君を覗いたら、僕たちの本を読んでるじゃないか。だからつい…』


 なんか聞きたくない単語が聞こえたけど、それは置いておこう。神様が暇つぶしで下界を覗くのは定番だ。やるのはいいんだけど……するなら、バレないようにやってくれないかな?心情的によろしくない。


「僕たちの本?……もしかして、ウルシラ様とヴァンリー様ですか?」


『そうさ!僕はヴァンリー!魔物や動物…あらゆる生き物を司る神さ!ウルシラは、美の女神で、とっても美人さんだよ!豊満な肉体美が『変な伝え方はやめなさい!』…はい』


 なんかこのままだと、残念ショタのイメージが付いちゃうなぁ。


『あ~!残念とか酷い!っていうかカティアも、中身残ね『ドカッ!』ギャイン!?…クゥン、クゥ~ン』

 

 鼻先を抑えて降参ポーズするイメージが流れてくる。ヴァンリー様は犬型の神様なのか?…しかし、先程の打撃音についてはふれまい。触らぬ神に祟りなしである。


『…ふぅ。ごめんなさいねぇ、カティア。しかも読書中だったでしょう』

「あ~…いや。ちょっと休憩に耽っていたので、大丈夫ですよ」


 えぇ。世界の創造に触れた神秘をって…物思いに耽っていたのは、本当ですから。


『それならいいのだけど。私たちがこうやって会話出来るのは、カティアに新スキルが追加されたことが原因なの』

「へ?…新スキル?」

『最近、最後にステータスボードを確認したのはいつかしら?』

「祝福の儀が最後……えへ?…ステータスオープン」


【名前 カティア・ガーディア

年齢 5

所属 マレント王国ガーディア辺境伯領

種族 人族

職業 無

魔力 無限大

魔法属性 無 聖

体力 3

運 87

スキル アイテムボックス 鑑定 隠蔽 礼儀作法 生活魔法 神通信←New!

ユニークスキル 神々の百貨店ネットショッピング 万物交流全言語理解

称号 異界還り転生者 神々の協力 創世神の加護


☆お知らせ☆

「神通信」は新たなスキルとして、世界図書館ワールドライブラリーに登録・所持者記載されます』


購入P 4兆9000億9325P      】



「なんじゃこりゃ~!?」

『…はぁ、やっぱりこうなるわよね』

『カティアの反応ウケ『ベシッ』イテッ!?』

 

『そこでなにをしている!?』

『やべっ!?見つかっちまった!』

『アンディフェナンス様!』


(え?そんな名前だったの?アンって…省略しすぎじゃない?)


『妙な神力の残滓を見つけて辿ってきてみれば…ウルシラ!お前が付いていながら、何故このような失態が起こるのだ!』

『申し訳ございません!』

『カティアは、まだ周囲が盤石ではないのだ!だから接近は禁じていたのに…他の神に示しが付かんだろう!?それに『神通信』は、魔力量が無限大とはいえ、幼いカティアの身体に負荷がかかるのは違いないだろう。いつから話していたか知らないが、すぐに閉じるぞ。すまない、カティア。こちらもカティアの身体の負担量を調べてみる。また連絡するが、今日はもう安静にして休んでくれ』

「はい、分かりました」


 特に疲労は感じないけど、後から来るかもだしね。アン様は急いでいるから、質問はまた次回だね。


『本当にすまない。この埋め合わせは必ず』


 私の返事を聞くやいなや、プツッと音がして、通信は途絶えてしまった。


 そして私は、アン様の言葉をアリサに話した。そうすれば、サッと顔色を変えて本を取り上げられた…酷い。

 私はすぐ様ベッドとお友達になり、明日も大事を取って休養することになりました。

    

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