第二章 五話 ガーディア辺境伯領導入期

「それで、これを領都で広めるということだったが、どうやって広める気だ?」


 頭が痛いのか、こめかみを揉みながら聞いてくる父。


「え?異世界なら、教会とかで子どもたちに読み書き計算を教えたりしているのが定番だったんですけど、こっちでは違うんですか?」

「確かに読み書き・・・・を教えてはいるが、カティアより大きい…ラファエルの年齢くらいから通うのが普通だ」

「おにぃ様の……教会の読み書きはどれくらいの頻度で行われるんですか?」

「週一回だな『…え?』…なんだ?それで半年も通えば、読み書きくらい出来るようになるだろう」

「計算は?」


 先程から聞き流していれば、読み書き読み書きと、計算の言葉が含まれていないんだけど?


「簡単な計算は教えているぞ。だがそれ以上になると、必然的に教会に通う頻度が増えるから、親たちが嫌がるのだ」

「は?……もしかして労働力が減るからとか、そんなつまらない理『お止めなさい、カティア』…お母様」

「この世界は、カティアのところのように恵まれた場所ではないの。皆、生きるのに必死で、明日の命の心配さえしなければならない人たちも大勢いるのよ」


 そうだった。だから私がこの世界に来たんだ。衛生改善も大事だけど、まずはご飯だ。


「申し訳ありません…そうだ、炊き出しはしていますの?」

「週に一回行っているわ」

「完全に慈善事業ですね…はっ…しまった」

「なにが…しまったなの?」


 我が家も決して裕福ではなく…貧乏(そこまでは言ってない…By父。第二話参照)と父が言ってたっけ。母は微笑んでいるが、兄のようにダークだ。ただし、こっちのほうが何倍も恐ろしい。まるで小鬼と閻魔様くらいの違いだ。きっと遣り繰りして、炊き出し代を捻出してるんだよね……よし!しばらく計算は後回しだ!衛生改善と炊き出しを中心に行動しよう。

 空いた時間で領都視察したい…でもそうなると、街を彷徨うろつくから護衛騎士は必須になるな。        

      

「お父様!お願いがありますの!」

「…なんだ?」

 私が急に意気込んで声を上げたから、父が身構える。


「護衛騎士の件を受け入れますので、領都視察の許可をくださいませ!」

「何故急に?…護衛騎士が付くのを嫌がってなかったか?」


 ん?領都視察については、なにも言わないのね。私は首を傾げて不思議がっていたから、素直な気持ちが吐露しかけた。


「そりゃ食っちゃ寝…ゲフンゲフン!自由な生活の終了ですからね!三食昼…じゃなかった!でも覚悟を決めたんです!私の幼女時代は終わりを迎え、貴族として領民のために活動する時期が来たのだと!」


 イケナイイケナイ。意識が他に行ってたわ。


「…分かった。だがカティアの護衛騎士は、自分で決めなさい」

「え?私が?」  


 胡乱げな目で見ないでくださいまし、父上。女とは、可愛い可愛い愛娘でも、したたかなも生き物なのですわ。はて、強かとは…3食昼寝付き…食っちゃ寝生活は、ただの怠惰である。


「貴方!」

 

 だがそれに異を唱えたのは母である。まぁ、当たり前ではあるが。


「そうだ。護衛騎士の選出方法は問わないし、そのために必要な準備も許可する。…ファルチェ、ちょうどカティアからやる気を起こしたんだ。いいじゃないか」


 だが母の抗議も右から左だった…いや違う。


「施策相談役と領都視察でカティア自ら動き回られるのとでは、話は違ってきますわ!」


 えぇ!?両親の間でそんな話になってたの?試験結果とやらは、それが結果ですかね?


「だからそこで護衛騎士の話になるんだよ。それにカティアは君に似て、彼女自身を自由に動かせたほうが輝くと思うよ?」


 まぁ、お母様…まさかのじゃじゃう…お転婆さんだったの?チラッと母を伺えば、恥ずかしい子供時代をバラされて、

頬が若干赤く染まっていた。


「ですが、領民のために活動をすると言いますが、なにを始めるつもりですか?」


 現実は甘くない…お母様の表情には、そんな思いがありありと浮かんでいた。まぁ通常はそうだよね、通常は。しかし!私には有り余る資金と物品ユニークスキルが付いている!


「手始めに、毎日夕方に食料の配布を行います。それと並行して、私の護衛騎士募集・選出を行います。合間を縫って、領都視察から・・始める予定です」


 大事な内容には触れず、大まかな部分のみ話す…嘘ではないからね。(食事情から衛生観念・仕事の比率・病院など、領都で調べる事項はたくさんある。半年もすれば冬がやってくる。あまり時間はない)


「資金はどうする?」

「私にはユニークスキルがありますので…こちらの活動で必要な資金も、ユニークスキルで金策するつもりです」


 こっちは調味料とか高いよね…それにもう購入してあるシャンプーとかも貴族に売れるはずだ。こっちの石鹸は泡立ちもあまり無いし、少し獣臭がするんだよね。貴族が好む瓶に移し替えて販売すれば、ガッポガッポ間違いなしやで〜。将来的には、自領で石鹸開発、作成所を作りたいな。


「そうか。定期的な報告は欲しいが、自分で方向性を決めているなら、言うことはない。新たになにか始める時は、一言ほしいがな」

「かしこまりますわ」


 その「一言」は、相談の意味だろうけど、始める前に報せるだけでいいだろう。なにか不味かったら、言ってくるだろうし。


「護衛騎士選出は生半可にいかないとは思うが、最初の苦難と思って頑張るんだぞ……それに恐らくだが、私が決めた護衛では、お前の護衛お守りは勤まらないと思う」 

「…では、本日決まった旨を、全て・・認めて下さいませ」


 ピクッ…目が痙攣を起こす。さっきの聞き捨てならない言葉、しっかり聞こえてんかんな!…全く!うちの父は戦いでは無双でも、他がポンコツだからね!デリカシーの無さにプンスコする私を見た母は、父に呆れの視線を送りながら頭を抱えたのだった。


 ガスパールとしては、ただの模範的行動しか出来ない護衛騎士より、柔軟な考えをした騎士を選んでほしいという思いつもりだったが……残念。言葉足らずという表現がピッタリ来る、良い事例だったことを添えておく。

 

「カティア自身が専属護衛騎士を選出するまでの繋ぎに、我が隊から四名貸し出そう」

「助かりますわ」

 今に見てろよ。私に全権与えたことを後悔することになるだろうよ…と陰ながらほくそ笑むのだった。 


 そんな私を、なんともいえない目で見ていた母は、もう戻れはしない過去に思いを馳せているのだろうか?……っとそんなことを考えていた私は、大事な用件を思い出す。


「お母様!わたくし、神々の大百貨店から色々と買い込んできましたのよ!手始めに設置した私の部屋のトイレ、試してくださいまし!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る