第二章 六話 ガーディア辺境伯領導入期

 あの後、「凄いわ凄いわ!」と繰り返しロボットのように大喜びした母により、お屋敷にトイレの個室が数か所作られることが決定したのだった。

 母のトイレ体験風景?…あの世に行きたければ、覗いてドウゾ。

 だが私のご満悦なテンションもそう続かない。


「あっ…カティア、お父様に申請書類等、しっかり提出するのよ」

「えぇ…なんでわたしが?」

「…あら?貴方の企画?なのよ。すべき事は最後までなさいね」

「…むぅ。分かりました」

「ふふふ、昨日はどうなるかと心配だったけど、どうにかなりそうだわ。「衛生」については、我が家の侍医も囲んで詳しく聞きたいから、近いうちに日を設けるわね」 

「畏まりました」

「それにしても、父様はもう少し書類仕事を上手に裁けないと、自由な時間もありませんねぇ」

「ほほほ、領主の努めよ。仕方ないわ」

 

        ◇


 日が明けた翌日…私は机の上でダラダラしていた。


「書類ねぇ…こっちの書類の書式知らないんだけど…。日本で教育を受けてきたからって、ちょっと過信すぎじゃあなぁい?うちの両親。まぁ、いいや。しかし設置工事の工房をどうやって見つけよう?お母様が設置を決めたのはよかったけど、個室がいいってのは盲点だった。洋室だとバスルームと一体だしね。まぁ、日本人としてはトイレの個室は大歓迎だけど。洗面台って水の配管もいるよね?洗面台の受け皿は陶器がいいけど、あのサラサラの感じ…こっちの技術で製造は出来るかな?最悪銀皿をボールみたいに加工しよう。取り敢えず、申請書類はあっちの書式で書こうっと!」


 トイレの設置だけを考えてたけど、いちいち離れた洗面台まで手を洗いに行くのは面倒だから!と、ボスに言われたら断れないよね。おかげでやることが増えて、設置が少し(?)遅れそうだけど、文句は言わせないよ。



――――――――



ガーディア辺境伯領領主

  ガスパール・ガーディア 殿

     

     住所 ガーディア領主邸本邸

   申請者 ファルチェ・ガーディア

  担当者氏名 カティア・ガーディア


  トイレ及び洗面台設置申請書


設置目的

トイレ→快適な生活・衛生環境向上

洗面台→病気罹患率予防・軽減

設置概要

・劣悪な衛生環境から清潔な衛生環境の変化により、病気予防の確立を目指す。

・生活導線確保により、警備体制の負荷軽減率上昇の見込み

・清掃軽減による使用人雇用の見直し

設置効果

・試験段階として、ますば屋敷の使用人に、衛生概念の意識改革の講習を行い、理解向上に務める。

・試験段階を熟慮した上で、領民への衛生概念の講習を定期開催。講習を通じた意識改善と、衛生環境の新整備を並行し敢行すると共に、衛生意識の習慣化を目指し、全体の意識改革へと移行する。

・人権費余剰繰越金の検討を推奨。

  

               以上


――――――――


 同時進行は、領主様は衛生について知っているのに、私達に平気で使わせてるって不信考えを抱かせないため。

 行動するってことが大事なんだけど、突然大規模な政策は混乱の的だからね。お屋敷にトイレ設備が整えば、衛生講習も受けたお屋敷の使用人さんにも、トイレを使ってもらうし、それとな〜く感想を噂にして、宣伝してもらいましょ!

 田舎|辺境で娯楽に飢えた民の、噂の伝達スピードの恐ろしさに変わるものはない。これを少し、情報操作に利用させていただきましょ、にょほほほ。


 トイレだって、始めは公共圏の公園や広場、役所やギルドから始まり、レストランや個人宅などの生活圏へ広げていきましょう。

       

「でもこうやって書類に書き出しただけでも、タスクが目白押しでしばらく忙しいなぁ」


 お屋敷の衛生講習や、工房探し、公衆トイレの場所の選定…の前に、専属護衛騎士の決定、炊き出しの準備に手伝ってくれる人の募集などなど。

 

「提出書類はまだあるけど、少なくても工房を見つけて、見積もり貰ってからかな?…ということで、先に申請書だけでも提出しましょう」

 

 私はお馴染みとなった、アリサ呼び出しベルを、チリンチリンと振るのだった。


「お嬢様、お呼びでしょうか?」

「この書類を、お父様に届けて欲しいの」


 先程書き終えて、インクを乾かして丸めた書類を、アリサに手渡す私。


「畏まりました…失礼致します」


 アリサが退室したのを確認し、私は一息つくのだった。


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