第二章 七話 ガーディア辺境伯領導入期



ガスパール Side


「…カティアお嬢様の護衛ですか?」


 まだ5歳のお嬢様は、お屋敷から出ることなんて早々無いはず。何処かに出かける用事が出来たのだろうか?


「あぁ。ちょっとした理由があって、今回の護衛は短期ではなく、中期と見てもらって構わない。しかも、魔法契約込みの護衛になる。エイリックの小隊から、お前込みの4人体勢で任せたい」


 エイリックはガーディア領軍の兵士で、50名を束ねる小隊の隊長をしていたが、ガスパールは、カティアの短期護衛として、エイリックに異動命令を出した。突然の辞令に戸惑うエイリック。

 彼の瞳の揺れを見逃さなかったガスパールは、条件出した吊り下げた


「我が娘、カティアの護衛任務期間を無事やり遂げた暁には……」

「暁には?」

「中隊副隊長の座を約束しよう」

「っ!?」

「今後の小隊隊長は、副隊長のヤザルに任せるつもりだ。カティアの護衛任務期間中は、ヤザルは小隊隊長代理という措置を取るが、カティアの護衛任務終了次第、小隊隊長に辞令を出す。エイリックは、中隊副隊長への辞令になる」


 小隊が50名に対し、中隊は5倍の250名を束ねる隊になる。その副隊長になれば、危険地域への討伐遠征もあるが、危険手当も出るし、給与も格段に上がる。


「畏まりました。しかし、魔法契約込みの護衛任務となりますと、本人の意向確認をしてからのお返事になりますが…」

「あぁ、それは勿論だ。この話は持ち帰って構わないが、秘密保持規定になる。部下たちと話し合う際は、扱いに十分注意するように」

「畏まりました」


 契約魔法は、貴族家や商家の機密事項に関わる職務内容に携わる場合に交わされる守秘義務の契約である。もし秘密を漏洩しそうになれば、その身に耐え難い苦痛が襲うというものだ。


 勿論軍部に仕える身として、情報漏洩には気をつけてはいるが、絶対漏洩しないとは言えない…残念ながら、夜の蝶とか異性の間諜とかに…引っかかる単純な奴もいるんだよ。だから雇用側は、本気で隠したい情報に関わる使用人や部下には、魔法契約こういう手を使用せざる負えない。


「誰を選ぶべきか…お嬢様護衛だから、女性騎士も外せないよな……」

 

 エイリックは女性が苦手だ。これからのことを思い浮かべて、思わず頭を掻いてしまう。廊下での歩みは止まり、表情は眉間に皺がよっている。数少ない女性兵士をどうやって誘おうか?エイリックはやれやれと思いながら、頭を捻らせるのだった。


        


「お呼びにより馳せ参じました、カティアでございます」

「…誰に習ったんだ?その挨拶」


 父に呼ばれているからと、アリサに連れられて向かった応接室。サロンじゃないから誰かいるかも?と思い、上記の挨拶余所行き猫かぶりをすれば、ポカンとした父に迎え入れられた。


「…座ってもいいですか?」


 私がお転婆しているような反応しないでよ!、と目で訴えてみた。


「…っあぁ、勿論だよ!」


 そんな私に父は頷き、手前のソファへ視線を向ける。

 私はアリサ先導で歩き、腰掛けた。もちろん私一人ではよじ登り案件なので、アリサの抱っこ付きである。

 父の後ろには、見たことがない鎧を来た騎士が数人、静かに控えていた。


「今日は、この間話していた部下を紹介しようと思って、カティアを呼んだんだ」

「護衛騎士の…」 


 行動が早いな!?あれから数日しか経ってないけど!いや、助かるよ?これで、領軍施設に行くことが出来るからね。


「ラファエルが言い初めた護衛騎士の件だが、今では私とファルチェの総意・・でもある。頑張って自分の専属を見つけるんだぞ」


 貴族である両親の『総意』は、絶対命令だ。しかも、私の役目には必須な存在だ。頑張って探すしかない。

 しかし、父の自信に満ちた表情はなんだろう?なぜか、癪に障る笑顔だな。


「カティアは、これから創世神様かのお方の為に、忙しくなるだろう?」

「そうですね」


 濁して言い方をする父だが、私は先程の笑みが癪に障って軽く答えてしまう。


「…それでだ。カティアの活躍を聞きつけて、良からぬ考えを抱く者も出てくる」


 そんな私に気付かず、神妙な顔で話す父。


「彼らは、カティアの専属が決まるまで護衛騎士を引き受けてくれた、私の・・頼もしい部下だ!もちろん、『契約魔法』のことも、彼らは快く結んでくれたよ」

「そうですか!…ありがとうございます」


 やっぱり自慢だ!確かに辺境伯として、魔物討伐や国防の要を護るのは立派だ。だがこの場に彼らがいるのは、彼らの努力の証だ。

 それを統率・維持する父を尊敬もするが、それを自分の子供に、自慢の玩具を見せびらかするのは…違うよね?


「さっ、順に紹介しよう!右から、エイリック・ディラン・ミリー・ケイトだ。通常は三人体制で、カティアの警護にあたる。隊長はエイリックで、副隊長はケイトだ」

「ガスパール・ガーディアの娘、カティアと申します。これからよろしくお願いいたします」

「「「「こちらこそよろしくお願いいたします」」」」


 そんな私の急降下する機嫌も感じ取れない父は、意気揚々と紹介を終わらせたのである。

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