第二章 三話 ガーディア辺境伯領導入期


「ふっふっふっ…ついにボットン便所とおさらばの時がやってきた!いざ『神々の百貨店』オープン!」 


 私の指が、大振りを切ってステータスを押す。ちょっとグキッとなったけど、この際ご愛嬌で済ましましょう。


「はーい、いらしゃ〜いませ〜!私はカスタマーサポーター接客精霊のあやめだよ。用件はなぁに?」


 そしてステータスの『神々の百貨店』押したら、ギャル精霊が出てきたよ。精霊の後ろにショッピングストアの半透明ボードも出現してるけど。


「トイレを買いに来たんだけど…」

「な〜んだ、最初の買い物がトイレ?」


 明らかに残念そうにするあやめだが、私は決意を固めて来ている。


「じゃぁ、あやめもボットン便所を使えばいいよ。あの暗くて臭いあ『トイレだね!どれが良い!?妾のショップは世界最高峰の品揃えだよ!なんたって出品者は神じゃからな!不可能はない!』…上下水道不要の汚物臭気完全除去の設置型トイレ下さい」


 私が鬱々と感想を延べているのに邪魔をするなんて無粋ななやつめ!

 しかしそんなに食い気味に勧めてくれるなら、私の考えうる最高峰のトイレを頼もうじゃないか!最初は上下水道工事を覚悟してたんだけどな。配管とか色々計算しなくちゃいけないと思ってたし。


「あるよあるよ!超高性能魔導トイレ!お値段1台1500万!」

「う!?…高い」

「高いけど、稼働力も抜群だよ!周りの空気中の魔素を取り込んで自動充魔しちゃうから、魔導具に必要な魔石いらず!辺境領なら魔素もたくさんあるし、燃費には困らないっしょ!?」

「まぁ、そうだけどね。うち、領都五万人くらい人口いるからさ。全部このトイレ『チッチッチッ!そこらへんは、まだ小市民感覚のままだよね〜』…なるほど。貴族と庶民でグレードを変えろってことね?」

「ピンポーン、正解でーす!」

「…ついでに、カスタマーサポーターもチェンジ出来るかしら?」

「…は?なにを冗談はよしこちゃんってね?」


 急に昭和だな、おい。


「…じゃあグレード落として配管…上下水道不要はどれくらいの値段かな?」

「えっと…設置型じゃなくて、埋込み型の多少工事が必要な2つあるから説明するね。1、設置型水洗式魔導トイレ!汚物完全分解、消臭除去(中)を実現。水洗は魔導具の魔力を周囲から取り込む自動充魔式よ。さしに流れた水は封水以外は汚物と一緒に分解される仕組み。2、これは埋込み型だから工事が必要だけど、さしの向こう側に水洗で汚物を溜めて肥料を自動作成してくれるトイレね。水洗は1と同じく自動充魔式!使用後の匂いの換気は必要だけど、肥料が必要な農家さんとか田舎の人にお勧め!1つ目は200万円で2つ目が30万円よ」

「なるほど…性能で随分値段に差が出たわね」


 肥料を自動製造するというトイレの着目点は素晴らしい。肥溜め作らなくていいし、落ちなくていいし。

(私じゃないよ、昔の人の話)

 村のトイレは視察に行ってみないとなんとも言えないけど…家の近くの林の中にするか、村でトイレを掘って小屋を立てて…とかそんなんだと思う。村で作る理由は1つ。肥料集める手間をなくす…これに尽きるよね、うん。


「取り敢えず、全部10個ずついただける?現物はアイテムボックスに入れといて。後は石鹸とトイレットペーパーが欲しいわね。あっ、タオルも!」

「かしこまり〜!」

「石鹸は各種100個ハンドソープとボディソープ、シャンプーとリンスをもらえる?」

「かしこまり〜!」

「ランクは貴族と庶民で分けといて」

「香りはどうします?」

「各種入れといて〜」

「かしこまり〜!タオルは…『ふわふわとちょいゴワで』…かしこまり〜!」


 だれがどの品目を司る神かわからないが、あやめのニヤケ顔が怖い。


「石鹸のレシピってある?出来るなら、こっちで特産品にしたいんだけど…」

「レシピ本は色々あるっすよ。美容・料理・薬とか種類別にあるっすけど、絶滅した材料だったり、制作激むずレシピもあるっすよ?」

「う〜ん。そこら辺の閲覧は制限をかけるわ。現在の選りすぐり写本を見せる予定よ。今回は美容と薬をもらうわ」

「かしこまり〜!…商品はすべてアイテムボックスに入れてますから、後で確認してくださいね!」

「ありがとう」


 怒涛の買い物だったけど、自分で荷物持たなくていいのは楽だわ。ただし、どれくらい買ったのか…感覚が麻痺することはお伝えしておこう。私は、ステータス画面を閉じて一呼吸した。たくさん買ったけど…残額Pが怖くて確認出来ない……あとにしよ。


「でも、びっくりした。精霊をこっちで見なかったから、いないものかと思ってたよ」


 独り言ながら、私は自分の部屋にある浴室に移動する。


「トイレをどこに置こうかな?お風呂は猫タブだし(持ち運び可能)、手洗い台は扉の左側…トイレは右かな?…よいしょっと…あっ、取り敢えずお母様に体感してもらわないと…」


 私は自分の浴室の右にトイレを置いて、トイレットペーパーも台の上に置き、ふわふわの石鹸とタオルをセッティングした。


 彼女はミストレス女主人。この屋敷のボスである。私はいそいそと、メイドの呼び出しベルを鳴らすのだった。


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