第5話 メカ勇者 vs. ...?

「パンッパカパァーン!ついについにー?メカ勇者が、完・成、しましたー!」


「うぉぉぉぉぉぉおお!でかしたぞブレインハット!」


大洋に浮かぶ魔王城から、海にまで轟くほどの歓声が響いた。


何せ、メカ勇者がいよいよ完成にこぎつけたのだ。その完成品は赤いベールに包まれ、広間に集った魔王軍一味全員が、そのお披露目を今か今かと待ちわびていた。


「それでは、早速見ていただきましょー。こちらがぁ、この私の最高傑作!メカ勇者でぇーす!」


ブレインハット卿が、マシンハンドでベールを剝ぎ取る。



そこには、勇者…っぽい何かが鎮座していた。


まず、等身が全然合っていない。本物の勇者はすらりとしたモデル体型なのに対し、メカ勇者は寸胴で丸っこく、まるでゆるキャラのようなデフォルメ体型だ。


細部に注目すれば、金色のメッキでコーティングされたロングヘアに、「001」の型番が刻まれている。顔に目を移すと、ライム色のガラスで出来たつぶらな瞳と、大きいお口がキュートだ。…が、勇者の美しい顔立ちを再現できているかと言われると微妙な気がする。あと、全体的に思いっきりメタリックな輝きを放っている。生物感はゼロだ。


「お…おぉ…」

「ま、まぁ、見かけはまぁまぁ…」


一同のリアクションもニセ勇者の時と比べるとイマイチだが、少なくとも「メカ勇者」であることには間違いない。そもそもメカ勇者は本物の勇者を倒せるくらい強ければ良いのだから、別に見た目は重要ではないのだ。


「ではではー?さっそく性能をご披露しちゃいましょー!」


ブレインハット卿は、リモコン機器を手に取り、その小さな身体と比べると大きなレバーを引く。すると、メカ勇者の目が怪しげな光を放った。


「いきますよー!まず、目からビィーム!」


その掛け声と共に、ひときわ強く輝いたメカ勇者の眼球から、激しい偏光と共に一本の線が放たれた。


「ぐわぁあっちちィッ!!!」


緑色のレーザービームは、あろうことか魔王ブルカブトの身体に命中した。あまりの熱に反射的に玉座から転げ落ちるブルカブト。一瞬の照射だったが、レーザーに中てられた鎧は一部が溶け出していた。


「あらー?これは失礼しましたー。当てるつもりはなかったんですが、うっかりですねー」


「バカモノ!殺す気かっ!!」


ブルカブトは怒りを露わにしたが、同時に手ごたえを感じてもいた。ドラゴンの炎でさえ全く通さないというブルカブトの鎧を、瞬時に貫き通すレーザービーム。これを浴びれば、さしもの勇者もひとたまりもないだろう。



「ではー、続いての武装紹介でーす。口からガトリング・ガァーン!!」


今度は、メカ勇者の口がぱっこりと開いた。人間の顎の可動域を越えて、顔が首と一直線になってしまっている。そしてその開かれた口腔部からは、大きな穴の開いた鉄の棒が突き出ていた。


ブレインハット卿がリモコンのボタンを押すと、その鉄棒が高速回転し始める。そしてその次の瞬間―



ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガン!



まるで空から雹が降り注いだ時の様な炸裂音と共に、鉄棒が火を噴く。その火の勢いのまま、鋼鉄の弾丸が雨あられの如く前方に叩きつけられる。もちろん、そこに居たのは―


「ぎゃあああああぁぁッ!いでででいででいでぇっ!!」


またしても魔王ブルカブトだった。鎧はたちまち穴だらけになり、その下の硬い表皮にまで傷が付いている。大砲でも崩れないと云われる魔王城の壁にすらヒビを入れるほどの威力だ。


「あららー?また魔王様に当たっちゃいましたー。すみませんねー、ほんと」


「貴様、いい加減にしないと地獄送りにするぞ!」


まあ、この兵装も魔王を圧倒するほどの威力なので、勇者にも効く可能性は十分ある。そろそろお披露目はいいのではないかという空気が漂うが、ブレインハット卿はなおも続ける。


「ではお待ちかねのー、最終兵器!手からロケット・パンチィィィーっ!!」


メカ勇者が両腕をまっすぐに振り上げると、不意にそこから火花が散る。何やら噴煙のようなものまで吹き出し、一同は騒然となった。なぜなら、その腕が狙いを定めた先も、また―


「―おい、やめ」


その瞬間、激しい爆風を生じて、メカ勇者の両手が腕から分離した。固く握られた拳は、爆炎と共に魔王ブルカブトの顔面に―



「ぶべぇぇぇぇぇっッ!!!」


クリーンヒットした。吹き飛ばされたブルカブトの身体は勢いのまま広間の壁をぶち抜き、金庫に積まれたインゴットの山を撥ね飛ばして、もう一枚の壁に激突してようやく止まった。

ロケットパンチは、腕部と繋がったワイヤーに引き戻されて、メカ勇者の下に戻った。パンチの支えが外れ、ブルカブトはそのまま前のめりに力なく倒れた。


「あっはっはー。ノックアーウト!やっぱり私の発明品は世界一ですねー」


三度の事故で魔王をグロッキーにしてしまったというのに、能天気な態度を崩さないブレインハット卿。あまりの出来事に、残された魔王軍関係者たちは困惑するばかりだ。


「―さてと。これで、厄介者は消えたわけだねー」


何やら不穏な言葉をつぶやいたブレインハット卿は、メカ勇者の頭をなでなでしつつ関係者たちの前に向き直る。


関係者らの間に一つの不吉な予感がよぎった。



クーデター魔王への反乱



その予感が現実のものであることは、次の瞬間に判明した。


「魔王ブルカブトの時代は終わりましたー!はい拍手!」


魔物たちの開いた口が塞がらない。


「これからは魔王ブレインハット様の時代なのだー!はっはっはー!はーっはっはっはーっ!!」



ブレインハット卿、いや、魔王ブレインハットの狂気じみた幼い笑い声が、魔王城にこだまする。大陸の歴史を揺るがす政変が、ここに起こったのだった。


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