『髭高病院』

名前:髭高病院

脅威度:中

場所:H町、A町境目

時間干渉系?

無暗に近づくべからず。

過去に因縁あり。


髭高病院という廃病院は余りにも有名だ。

病院自体は以前火事で焼けてしまったのだが、その後何年もその場に居続けている。

実は兵の病院だとか拷問されていただとかいう噂が絶えることがない。


以下。インターネットの情報となる。


・髭高病院は10年以上前に国によって経営されていた国立病院である。

・実際はもっと古くあり、その起源は第二次世界大戦にまで及ぶ。

・病院の場所は県境にある森の中。

 当時第二次世界大戦の戦火から逃れるために森の中に作成された。

・傷ついた兵士たち、もしくは患者たちがこの病院で治療を受けていた。

・その際、敵兵に見つかり出口を閉められ中から焼かれてしまった。

・もしくは大正時代、赤思想の人たちを隔離し、拷問を行う場所として使用。

・表向きは病院だが、地下には拷問施設があった。

・死んだ際は病院として病死、もしくは自死と言った処置を行えば済む。

・中に入ると、死んだ人たちが囁いてくる。

・入ったらもう外には出られない。

・取り壊そうとした会社が全て事故に遭っている。


なんとも眉唾な話だが、このような事は都市伝説によくあること。

私は、依頼主のIさんによってこの都市伝説が実在することを知る。

Iさんは大病院の院長である。

5年前、優秀であったがため引き抜きをされ、直ぐに院長になったと聞いた。

この都市伝説に関しては、「神聖な医療という存在がこの都市伝説によって汚されている。存在を確かめてほしい」と言っていた。

その熱意はただ物ではなく、まだ新人だった一路くんも驚いていたし、紫樹くんに至っては興奮して根掘り葉掘り聞きだそうとしていたので先輩の詩織ちゃんに引きはがされていた。

とにもかくにも、私たちはこの病院について調べなければならない。

その結果が上記のインターネット情報だった。


深夜。

少し車を走らせて、私たちはこの病院跡地に辿りついた。

するとどうだろう。

「廃病院」とは似ても似つかない、白くてきれいな病院が建っていた。

事前にたっぷり調べていた紫樹くんは驚いていたし、霊感があるという蓮華ちゃんは霊の存在を感知できないと言っていた。

何度も言うが、言葉のあやなどではなく、本当に綺麗で白い病院だった。

噂では黒くて焦げているような、薄気味悪い病院だと言われていたのが嘘のようだった。

中に入ってみると、更に可笑しなことに中には人がいた。

外は明るくなっていた。深夜に来たのに。

賑やかで暖かな雰囲気の中、診察待ちの人、会計待ちの人、入院患者、医療スタッフたちが居たのだ。

これには一路くんも驚いて強く目を回していた。

それはそうだ。ここは廃墟なのだから。


院内テレビでは甲子園の中止、というニュースが流れていた。

おかしい。今年は甲子園が解禁されたはずだ。

国、いや世界を狂わせたあるウイルスのせいで、甲子園が休止に追い込まれた。

悔しくて泣く学生たち、楽しみにしていた客までもがその心の内をさらけ出していたのをよく覚えている。

その時、蓮華ちゃんが「5年前」と小さく呟いていた。


……そう、ここは5なのだ。


単純明快に言う。この髭高病院という病院は少し前まで

都市伝説のようにやれ第二次世界大戦やら、やれ赤思想と言ったものは存在しなかった。

ならば、何故髭高病院がこんなことになってしまったのか。


があったからだ。


髭高病院の様々な出入り口、窓も含め何らかの液体(恐らくゴム製、もしくは強力ジェル)のようなもので塞がれていたという記録が残っている。

犯行は深夜に行われており、その周辺に人はおらず、怪しげな人物も見なかった為、犯人は未だ逃走中。

結果、入院患者、宿直のナースたち合わせて凡そ100名が犠牲になった大事故になった。

原因は一酸化炭素中毒、もしくは焼死である。

唯一地下の死体保管室のみ火の手が来る前に沈下されたのが皮肉だろう。

この病院も、元々「髭高病院」という名前ではなく「辰本病院」であり、都市伝説にあやかって様々な人が名前を変えたのだろうと推測する。

辰本病院と聞けば、皆も聞き覚えがあるだろう。

院長の辰本均氏は謝罪会見で膝を折り嗚咽を漏らし泣いた。

その後、「管理不足だ」「院長としての自覚が」などという世間からの強いバッシングにより、自ら命を絶っている。

悲惨な話だ、辰本均氏は被害者だというのに。


話を都市伝説に戻そう。

髭高病院の人間たちは誰もが未来を感じ、笑顔でいた。

蓮華ちゃん曰く、彼等は幽霊ではないとのこと。

つまり、我々は5年前にタイムスリップした、ということになる。

事件が起きたのは5年前の5月15日。

放火が起きたのは5月16日だ。

一路くんが全員の避難を、と言ったが、私は首を横に振った。

何故なら、彼等は既に死が決まっている。

動かすことは出来ない、5年後に彼らの肉体は存在しないのだから。

悲しいことに、ここには小児科も産婦人科も存在していた。

生まれた命、生まれ来る命が平等に奪われる。

今からこの人たちを見殺しにする。

それは、まだ高校生の一路くん、紫樹くん、蓮華ちゃんには重かっただろう。

何度か都市伝説に潜っている詩織ちゃん、冬伊くんなら多少心を殺して行動していたかもしれない。


髭高病院の都市伝説は誤りであり、存在することを知った我々は外に出ようとしたが、外に出ることは叶わなかった。

扉が開かない。そのことに気付いた時には、外は真っ暗になっていた。

夜が訪れていた。

自動扉も開くことが出来ず、どの窓も開かなかった。

その時、自動扉の向こうから誰かがやってきた。

背丈は180㎝程、男性だろうか。

男は我々に気付いていないのか、ポケットティッシュを取り出しそこに火を点け茂みに投げ入れた。

1つだけではない、2つ、3つ、4つ。

そこにガソリンを振りかけると、火の手はワッと上がった。

反射的に考えたたことは1つ。

「このままだと、我々も蒸し焼きにされる」

私たちは開いている窓を探したが見つけられない。

警報機が鳴り、火事を伝える。

起き出した病人たちは我先にと非常扉や自動ドアに群がるが、開かない。

現場検証で判明した液体(私たちが調べたところ、これは強力な接着剤、グルーに近いものだった。普通のホームセンターなどでは取り扱っていないような)によるものだ。

事件のことを思い出し、火の手が回らなかったと言われている死体保管室へと急ぐ。

その間、何度も人がすれ違った。

男性女性子ども妊婦老人。

全員が生きたいという顔をしていた。と一路くんは言った。

我々4人は死体保管室へ移動する。

まもなくして、人々の悲鳴や嗚咽などが大きく響き、ごおお、という火特有の唸りが聞こえた。

私は3人に耳を塞ぐように、と言ってその通りにさせた。

燃えていく命の音を、聞かせたくなかった。


結果的に、私たちは助かった。

火の音が消え、死体保管室の壁がひび割れたことで、5年後に戻ってきたことを知った。



あの時の放火した男の顔を、紫樹くんはハッキリと見ていた。

火に照らされた男、それはIと。

彼の思惑は分からない。放火しなければいけない理由があったのだろう。

それは、万人にも許されない行為だ。

未だに苦しんでいる遺族もいる。この事で死んだ人もいる。

私は都市伝説メンバーの6人にこう言い放った記憶がある。

「私は今から、酷いことをしようと思う」


何をしたかというと、私はただ一言言っただけだ。

「ありましたよ、髭高病院。いや、

それを聞いたIさんは血相を変え、何処かへ行ってしまった。


後日、テレビでは大病院院長、I氏が行方不明になったと放送されたが。

きっと人違いだろう。

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