『午前1時の怪奇ラジオ』

名前:午前1時の怪奇ラジオ

脅威度:低

干渉してくる、意図的に可能か?

こちらからの操作もできる。

失踪の恐れはない。


午前1時の怪奇ラジオの噂は、巷のラジオ愛好家では有名な話だった。

単純明快、ラジオが話しかけてくるという代物だ。

夜中、午前1時ごろ、ラジオ番組を聞いていると、とあるチャンネルで誰かがこちらに干渉してくるという物だ。


これは、私が直接聞いたものだ。

メモを取っていない為、うろ覚えとなる。

確か、50代か60代の男性だったか。


「午前1時の、怪奇ラジオですか」

『はい、ラジオ愛好家の間では有名なんですよ。午前1時にラジオが話しかけてくるっての』

「聞き間違いとかではなく?」

『まさか。何人も同じ現象にあっているんです。名前を聞かれたり、進捗を聞かれたり。携帯電話が普及する前はラジオを通して他の人の状況を聞いたりしていたんです』

「つまり、今でいう電話の役割をしていた。と」

『でも、午前1時の怪奇ラジオを聴いている人だけなんです。ラジオはきっかり1時に始まり、午前4時で終わるんです。僕らの青春時代でした。ラジオの向こうに人が居て、顔も知らない誰かが僕を応援してくれる。そんな気がして』

「なんだか良い話ですね。ラジオのコメンテーターが直接言ってくれるんでしょうか」

『いえ、声は様々のようです。まるでトランシーバーで会話しているような感覚でした。あの時代、深夜のラジオ局は殆どやっていなかったような気もしますし』

「どんな話をされたんですか?」


『僕はその頃受験で、日々伸びない成績に頭を悩ませていました。今でこそ、「睡眠の方が成績が上がる」と言われていますが僕のころは「勉強をすればするほど」という言葉を信じて、深夜から早朝までずっと勉強を。

その時、耳が寂しくなってラジオのノイズでも流そうか、と思ってラジオをつけると。人の声が、したんです。

僕が「すごい、何のチャンネルなんだろう」と声を出せば、向こうから男性の声で「お、新人さんが来たみたいだぞ」という声がして、皆がわっと話しかけてくれたんです。

このラジオでは、本名は言わず名字だけ。なんでも自分たちの好きな話をしていいってことで。僕は受験のために勉強をしていると話しました。

そうしたら、見ず知らずの人たちが「偉い」「がんばれ」「君ならできる」と応援してくれました。

誰かの話を聞きながら勉強するのが、とても楽しかった。

時に、誰かが愚痴をこぼしたら全員が「悲しかったね」「大丈夫だよ」「対策を考えよう」と言ってくれたり。

子どもが出来ました、という報告には「おめでとう!」「素晴らしい!」「お祝いしたいくらいだ!」と、暖かな言葉が飛び交う。

時折、ラジオの中で喧嘩もあったけれど。翌日に仲直りして。

とても楽しかった。誰かには秘密にしたいくらいに。

おかげで僕もいい成績を残せていい学校に行った。当然報告しましたよ。

そしたらワッとラジオの住民たちが大騒ぎをしてくれて。たくさん祝ってくれました。

両親に祝われるより、もっとずっと、楽しかったな』


「今では、そのラジオは……」

『チューニングの関係で、その電波迄繋がるラジオは存在しなくなってしまったんです。不思議とね。

僕もラジオが壊れて新しいラジオをすぐに強請って買ってもらった、けれど、そのラジオにそのチャンネルに通じる電波が実装されていなかった。

深夜にもラジオが始まるけれど、僕を応援したり、会話をしたりするラジオは存在しなくなってしまった。とても寂しかったですよ』

「古いラジオを使ってみては?」

『古すぎては使い物にならないんですよ。まるで幻だったのような、何処か穏やかな高揚感だけが僕に残り続けています』

「…ありがとうございます、大変興味深いお話でした」



私はこの話を聞いた後、即座に古いラジオを購入した。

2つだ。

確かに、現代のラジオにはない、記載のないチューニングが一番右端に存在していた。

このままでは使えない為、定ちゃんに直してもらい、起動することが出来た。

幻の一番右のチューニングに合わせて声を出したが、誰も聞こえないという。

時刻はまだ午後10時だったためだろう。


午前1時に差し掛かり、再度声を出してみればまるでトランシーバーのように会話が出来た。

私の声は真っすぐラジオに繋がり、冬伊くんの声も真っすぐラジオを通って私の元に来た。


つまり、あの男性が言っていた「切磋琢磨の声」というのは、ラジオの中の怪異ではなく、ラジオが繋いだ心からの応援なのだろう。

まるで、現代の通話ツールのようだ。

顔も知らない誰かが誰かと会話ができる。

それは、当時とても画期的だったに違いない。

この怪奇ラジオが廃れていったのは、その背景もありそうだ。

……このラジオが使われることはないだろう。

今度は都市伝説の中からも通じるか試してみる必要がありそうだ。

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