第5話 話すべきこと
俺はしっかりとした足取りで駅に向かう。
少し、美春の死を受け入れられたのかもしれない。
美春と撮った映画の半券を見返す。そういえば何日か外に出ていないと思っていたが、実際は一日だけだった。
また、鼻の先がツンとした。
やっぱり、受け入れたくない。でも、明日は美春の葬式だから、受け入れざるを得ないだろう。
~~~
5時58分、いい時間だ。
そんな事を思いながら駅に足を進めると、リョウタはもうそこにいた。
「お!久しぶり〜!!!」
絵文字のような笑顔で俺を迎えてくれた。
涙が出そうになってしまったが、それを堪える。
「久しぶり!元気してた?」
自分の笑顔が引き攣っていないか心配になったが、表情の変わらないリョウタをみて少し安心した。
「もう元気すぎるわ!w 外部でテニス始めたしw」
「すごっ、元気すぎだろww」
他愛ない会話。あぁ、これが1番好きだなぁ。
高校や大学での友達関係や先生のことについて緩く話していると、お店に着いた。
最近オープンしたお店らしい綺麗な外装で、看板には“MY FOREST”と書いてある。
「ここは最近できたレストランで、ここのオムライスがうめぇんだよなぁ〜」
リョウタは昔からオムライスが好きだ。懐かしさにどんどん心が浸っていく。
「いいね、楽しみ!」
扉を開けると、シックな色合いの内装になっていて、木目が目立つようになっていた。
少し混んでいるように感じた。
俺たちは店の奥のテーブルに案内された。
「いい雰囲気でしょ?結構気に入っちゃった!」
リョウタは目をキラキラさせて店内をぐるりとみ回し、そのままメニューを開いた。
俺もメニューを開いて見る。
無難にノーマルのオムライスにしておこう。
リョウタも決まったようなので、卓上にある呼び鈴を押した。
「オムライスひとつで。」
俺がそう伝えると、リョウタはニコニコして言った。
「チーズオムライスとデミグラスソースで!」
店員さんはニコッとしたあと、注文を繰り返して厨房へと消えた。
よっぽどオムライスが楽しみなんだろうな。
俺はすこし口角が上がってしまった。
リョウタは1口水を飲んだあと一呼吸置くと、少し真剣な眼差しをこちらに向けた。
「で、話したいことって…何?」
俺も水を1口飲み、深呼吸をした。
「実は俺、彼女いたんだよね。」
少し間が空いたが、リョウタは明るい声で、
「えーっ!おめでたいじゃん!!」
と言ってくれた。
「ありがとう、でもね…」と、俺は声のトーンを下げて続ける。
「2日前に一緒に出かけた時、交通事故で亡くしてしまったんだ。」
俺の口は止まることを知らず、あった事を全てリョウタに言ってしまった。
気づいた頃には、リョウタは目に涙を浮かべていた。食事の前に気持ちを下げてしまったので、謝らなければと思った。
「ご、ごめ……」
リョウタは俺の言葉を遮るようにして言った。
「ごめん!!!!こんな時に誘っちゃって……。」
予想外なことを言われて俺はたじろいでしまった。
すぐに気を取り直して俺は答える。
「いや、リョウタのせいじゃないよ!むしろ、誘ってくれて嬉しかった。話せて、少しラクになったよ。本当に、ありがとう。」
リョウタは少し涙を浮かべているように見えた。
「お待たせしました、オムライスです。」
リョウタはオムライスに目を向けてから、またこちらを向いて言った。
「なら、よかった!力になれて、嬉しいよ。ささっ、食べちゃおう!」
リョウタは少し目を擦って、スプーンを持ち上げる。
話すべきことは話せた。本当によかった。さて、これからどう生きようか。
まだ、来ないでね。 緋賀 @Pnaro_nvl
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