第3話 途方
俺は覚束無い足取りで家へ向かった。
世界に色がない。
なにももう見たくない。
「ちょ、ちょっと。大丈夫?」
ふと後ろから声がした。
その時僕は駅にいた。
振り返ると長い茶髪に制服姿のの女子高校生が立っていた。
「あ、すみません…なにかしましたでしょうか?」
僕は全く記憶になかったので思わず訊いてしまった。
するとその女子高校生が目を大きく開いて言った。
「あんた、線路に降りようとしてたよ?!気づかなかったの…?」
マジかよ。
「すみません…」
俺はどうすればいいかわからなくて謝った。
「いや、落ちてないからよかったよ。気をつけて帰ってね」
優しい人でよかった。
「すみません、ありがとうございます。」
俺はその女子高校生と別れたあと、しっかり気を持って電車に乗りこんだ。
車窓から見える景色がいつもと違って見えた。
美春…どうして…?
鼻の先がツンと感じたのがわかる。
俺は目に力を入れて溢れそうなものを奥に仕舞い込んだ。
最寄り駅で降り、改札にスマホをかざす。
改札機がピンポーンと叫んだ。
スマホだと思っていたものは、よくみたら昨日買った板チョコだった。
今度こそスマホを取り出してかざすと、改札機は道をあけてくれた。
「はぁ…」
デカいため息が漏れる。
なぜ、なぜ美春が…。
なぜ俺じゃなく美春が死ぬんだ…。
あの時のことを思い出そうとすると頭痛が走り、思い出せない。
美春と手を繋いで歩いているところから美春の両親にお辞儀したところまでの間が全く思い出せない。
美春は、本当は死んでいないのかも。
何故かそう思った瞬間、脳内に布を顔にかけた美春の姿が浮かんできた。頭が痛い。ふと顔を上げると、そこは僕の住んでいるマンションだった。
カードをタッチしてロビーに入り、エレベーターに乗って3階のボタンを押す。
僕は足を落とすように進んで、家に入り、そのままベッドに倒れ込んだ。
頭が痛い。美春…美春…。
思わず目を力強く閉じる。すると、声がした。
「悠志、悠志。」
その声は間違いなく美春の声だった。
俺は目を開けた。美春がいる。
「み、美春?生きてるのか?」
俺は声を震わせていた。
美春は悲しそうに眉をまげて言った。
「ううん。死んじゃったみたい。今までありがとう。いっぱいお出かけして、いっぱいお話して、楽しかったよ。私から1つ、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
俺は涙を浮かべながら言った。
「うん、なんだい?なんでも言ってよ。」
美春はゆっくりと口を開いた。
「まだ、こっちには来ちゃダメだよ?そりゃ、私だって寂しいけど、悠志はまだ来ちゃいけない。私の分も幸せになって欲しいから、まだ、来ないでね。」
もう会えないなんて、嫌だ、嫌だよ美春。
でもそれは、声にならなかった。
「美春!!」
もうそこに美春はいなかった。
いつも通りの、僕の部屋だった。
「美春…」
僕はこれから、どうしたらいいんだよ。
美春なしの生活なんて…。考えられないよ。
でも、美春の分まで幸せにならなきゃ。
でも…。無理だよ。
俺は泣きながら眠りについた。
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