第2話 終わりの始まり
早く会いたい気持ちが僕の足を速める。
ドキドキしてきた。早く歩いたからかな。
駅に着いた僕はスマホを取り出して
改札にかざす。すると改札機はピンポーンと嫌な音で叫んだ。
チャージするの忘れてた…。
僕は急いでアプリから入金して改札にかざして、駅のホームに立った。
手に持ちっぱなしだったスマホが震える。
確認すると、彼女からだった。
《もうすぐ電車乗るね!》
僕はすぐに返事をした。
《了解!》
感嘆符をつけた僕のメッセージはいつもと違うように見える。
自分で打ったようには見えない。
そんなことは置いておこう。
スマホをポケットに入れて電車を待つ。
間もなくして電車がやって来たので、僕はまたスマホを取り出して彼女にメッセージを送った。
《僕も電車に乗ったよ!》
サッとしまって電車に乗り込む。
つり革を摑んで外の景色を見る。落ちつくな。
目的の駅に着いたので降りる。
駅の階段を降りながらスマホを取り出して、改札にかざす。
今度はちゃんと通れた。よし。
スマホの通知を確認すると、1件メッセージがきていた。
《映画館前、着いたよ!》
おっと、急がなければ。
僕は足の歩幅を大きくして進む。
映画館が入っているショッピングモールに向かう。
入ってすぐのエレベーターに乗り込み、
三階のボタンを押す。
エレベーターを降りると、もうすぐそこにいた。
「美春!ごめん、遅くなった。」
「悠志くん!よかった〜もうすぐ開場だよ!」
この子が僕の彼女、赤坂美春だ。
もう本当にこの世のものとは思えないほど可愛い。
惚気話に時間を費やしたいところだが、その気持ちをグッと堪えて会場へ行く。
「楽しみだね!」
可愛い。可愛すぎる。
「うん、そうだね」
平然を保つので精一杯だ。
僕は微笑みを返しながら会場のドアを開けた。
久々に来る映画館ほどワクワクするものはないが、隣の美春の存在は僕の心をより高ぶらせた。
席は前から3列目だった。彼女が所望したのだ。
僕らは席に着いた。すると美春が僕の手を握ってきた。
「ちょっと、怖いから…」
あー、可愛い。そろそろ死ねそう。
僕はこくりと頷いて手を握り返した。
***
映画を見終わった僕らは外へ出た。
これからこのショッピングモールの近くの飲食店街に行くところだ。
それにしても実にいい時間だった。
主人公がゾンビかなにかに食べられるシーンでは少し目に力が入ってしまったが、なかなかいい映画だった。
そんなことより手汗が出ていなかったかのほうに神経が集中していた。
汗腺を無くしてしまいたいくらいだった。
ちなみにまだ手は繋がったままだ。
僕は本当に幸せだった。
何を食べようか、
パスタ?ピザ?それともステーキ?
僕はとても浮かれていた。突然、体が前に引っ張られたのを感じた。その後すぐに、何か聞こえた。
ドンッ
鈍い音がした。横に目をやると、
真っ赤な水たまりがそこにはあった。
僕は、動けなかった。
手はいつの間にか離れており、
地面についていた。
なぜ目の前に赤みがかった車が止まっているのだろうか。
なぜそこからすごい形相で降りてきた男性が僕らの方によってくるのか。
なぜ誰かと電話し始めたのか。
僕はなにもわからなかった。
救急車のサイレンが近づいてくる。
僕は気を取り戻したようだ。
下を見た。彼女が倒れている。
僕はやっと状況を理解した。
彼女は、美春は、車に轢かれたんだ。
僕は美春のもとにゆっくりと歩いた。
なにも声が出ない。
ただただ、頬に水が走る感覚だけがある。
運転手らしき人が何か言っているが、何もわからない。聞こえるが、理解できない。
なんで…なんで美春が…?
そうこうしているうちに、救急車が目の前でとまった。
手を引かれるがままに乗り込み、僕は呆然としていた。
***
病院に着いたようだ。
美春は連れていかれてしまった。
僕は救急車から降りたものの、どうすればいいかわからず、いつのまにか座っていた。
何分、何時間経っただろうか。
白衣を来たお兄さんがこちらに来る。
「悠志さん、落ち着いて聞いてください。美春さんは、亡くなってしまいました。最善を尽くしたのですが…」
そこからは何も聞こえなかった。
よく分からない部屋に連れてこられるまで、意識はなかったと思う。
「美春さんです。」
美春は白い布を顔に被っていた。
僕は歩み寄って美春の手を握った。冷たかった。
僕は今、やっと完全に意識が戻ったと思った。なぜなら、声を上げて泣いたからだ。
扉が開く音がした。
振り返ると、美春の両親が居た。
美春の両親はこちらに走ってきて、泣いた。
泣きながら抱いた。僕も一緒に泣いた。
多分、いや絶対。人生でいちばん悲しかったと思う。
僕らはずっと泣いていた。
***
そこから出たあと、僕らは院内の受付のようなところで説明を受けてから病院を後にした。憶えているのは、お葬式に呼ばれたことくらい。
僕は美春の両親に別れを告げて、家路についた。
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