まだ、来ないでね。

緋賀

第1話 いつまでも続くだろう

ドンッ


鈍い音がした。横に目をやると

真っ赤な水たまりがそこにはあった。

僕は、動けなかった。


***


僕は幸せ者だ。

頭も運動も平均以上で、

優しい家族と愛しい彼女までいる。

そんな事を自室のソファの上でボケっと考えていると、机の上のスマホが鳴った。

彼女からだ。多分明日のデートの事だろう。

僕はスマホを手に取ってメッセージアプリを開く。


《明日は楽しみだね!あの映画、ずっと楽しみにしてたんだ〜!》


今日も彼女は可愛い。

ホラー映画を見に行く予定なのだが、見ての通りこんなに楽しそうだ。

僕はスマホの上で指を走らせた。


《そうだね、結構人気らしいし》


よくメッセージが無愛想と言われるが、そんなつもりは無い。

心を込めて打っているつもりだ。

まぁ、伝わるはずないんだけど。

僕はまた机の上にスマホを置いて、今度は横になった。

小さなリビングルームを眺める。

大学生になってから一人暮らしを始めたのだが、意外と快適だ。

実家と違い、リビングルームとダイニング、キッチンがひとつになっているのに慣れるのは時間がかかったが、住めば都とはこの事だろうか。

1人なので物も少ないから部屋は広々と感じる。そしていつでも彼女を呼べるように部屋は綺麗にしてあるつもりだ。


「楽しみだなぁ...」


デートは毎回ドキドキしてしまう。

明日は何を着ようか、どのカバンで行こうか…

そういえば明日、彼女は何を着てくるのだろうか?やはり寒いからコートかな。

美春のコート姿は1度見た事があるが、あれは可愛かったな。


ブルっ と身震いを起こす


どうやら寝てしまって居たようだった。寒い。

スマホを灯けると、時刻は午後11時を示していた。

明日はデートなのにな、と思いながら立ち上がってお風呂の用意をする。

今日はサッとシャワー浴びて寝よう。

明日に備えなければ。

俺はタオルと着替えを脱衣所に放り投げてから浴室へ足を運んだ。


「冷たっ」


ふと横に目をやると、お湯のスイッチが入っていなかった。

1つ小さなため息をついてから、僕はお湯のスイッチに手を触れた。

入念に体を洗う。汚れていたら彼女に申し訳が立たない。

洗い終えたので、サッと体を拭いて脱衣所に戻り、ドライヤーのスイッチを入れた。

水気を感じなくなるまでになったのでスイッチを切り、元あった場所に戻す。

前は戻さずに放っておいて、よく母に怒られたな、なんてね。

その場でササッと歯を磨いておいた。


リビングに戻った僕は、明日の予定をスマホのアプリでチェックしながらベッドへ足を運んだ。

10時から映画を見て、お昼ご飯を食べて、ショッピングして、解散。

幾度かそれを唱え、僕は6時にアラームをセットしたのち、眠りについた。


~~~


机の上のスマホが鳴る。朝だ。

スっと起き上がり、スマホに触れてアラームを止める。

昨日着る服を準備していなかったので、スマホをポケットに入れて、クローゼットへ向かう。そこで服を選んでいると、またスマホが鳴った。音は馴染みのアラーム音だった。どうやらスヌーズにしていたようだ。僕はポケットの中からスマホを取り出して、今度こそ停止ボタンに触れた。

僕は小さなため息を吐いた後、また服選びに戻った。

今日は雪が降った後なので、厚めの服にコートで行こうかな。

僕はひょいっと服を取って着替えた。

クローゼットから出ると自分の空腹に気づいたので、キッチンに向かい、トーストを食べることにした。

ストックしてあるパンを1枚取り出したが、昨日夕飯を食べていないことを思い出し、2枚目を取り出した。

トースターにパンを入れたところでスマホが鳴った。彼女からだった。

僕はスマホと目を合わせてメッセージアプリを開いた。


《おはよう!起きてる??今日は9時35分の電車に乗るんだよね?》


朝から元気そうだ。僕はトースターのタイマーをセットしてスタートボタンを押し、返信するために指を滑らせた。


《おはよう、起きてるよ バスはその時間だ|》


ここまで打って、やはり無愛想だな、と思ったので、皆が使うような記号を入れてみることにした。


《おはよう!起きてるよ!バスはその時間だよ〜》


こんなのでいいんだろうか。

僕は戸惑いながらも送信ボタンに指を置いた。

またスマホをポケットに仕舞うと、チーンとトースターが叫んだ。お皿を棚から出して、トーストを乗せてリビングの机に置いた。

机はリビングのど真ん中にある。

横にある大きな窓から入ってくる朝日を浴びていると、とても気持ちがよい。

サクッと音を立てたトースト。朝はこれに限る。日本人が大好きな小麦の塊だ。

食べ終わってお皿を洗った時にはまだ7時過ぎだったので、部屋の隅で充電してあったパソコンを机の上に持ってきて立ち上げ、YouTubeを開いた。

お気に入りのチャンネルの動画を見たり、ショート動画を回していたりしたら、いつの間にか8時半になっていた。

僕は大きくのびたあと、コートを羽織り、カバンを持って家を出た。

最高な一日が、僕らを待っている、はずだった。

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