第163話
心配させやがって。
この僅かな時間で、シャクリーンたちの苦労が知れるな。
「待つのー」
「はーい」
ロメイアが呼び止めると、子供たちは素直に止まった。
妖精王相手だと遊びでも命令を聞かないといけないのか。もしロメイアがカチンときて死ねとか言ったら大惨事だな。
「むう、みんな止まって面白くないの」
「自分が誰だか忘れたのか?」
「あ、ダーリン…………はっ!そういうこのなの!でも追いかけっこだから、つい言っちゃうの」
数百、もしかしたら数千年は生きているロメイアは子供よりも子供らしく無邪気に遊ぶ。
子供たちも、道行く妖精族たちもこの国では笑顔で溢れていた。
サラマンダーとウンディーネの子どもたちが手をつないで走り、シルフとドワーフの主婦が井戸端会議をしている。
見た目も文化も違うのにみんな笑顔でいるのだ。
これは俺がジョーカーがエスリメが目指す全種族共栄国家の一つの正解の形なのではないだろうかと、ふと思った。
ここに人族、魔族、獣人族が加われば俺たちの理想が完成する。
ならば、俺がするべきことは、俺がやりたいことは。
「ロメイア」
一つしかない。
「何なのダーリン?」
「妖精の剣と鎧をもらう代わりに俺はニアラとの戦いに協力すると約束した。けど、今は約束とか抜きに俺の意思で戦いたいと思う。この美しい国を俺の手で守りたい。そう思ったんだ」
損得じゃない。心の底からこの国の笑顔を守りたいという思いが湧き上がる。
この国は俺の命を懸けるだけの価値がある。そう感じた。
「やっぱりダーリンはサイコーなの」
高い声で笑うロメイアを肩に乗せて、俺は城に帰りヴァイオレットの帰りを待つのだった。
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ある日、マスターソードが3万の人族で構成された大軍を率いてフェアリースへやってきた。
事前に通告が無かったので主にシャクリーンがブチ切れてたが俺の預かり知らぬことで怒られても仕方がない。
エスリメ軍はフェアリース郊外で仮住居を建設して、とりあえず駐屯することにしてマスターソードが城まで来て事情を説明した。
マスターソードによると、この派兵は孔明の指示だそうだ。
「コーメイから伝言だ。敵は三日以内に必ず大規模な軍で攻めてくる。これが作戦だ」
マスターソードから受け取った手紙には敵の戦力と進軍路、こちらがどう動くかが綿密に書かれていた。
均の未来予知でもここまで詳しくは分からないはずだ。
てことはこれは完全に孔明の予測ってことになる。
「ふん、何だこの作戦書は。まるで予言ではないか。エスリメは占師を軍師にしているのか」
作戦書を読んだシャクリーンが鼻で笑って馬鹿にしてきた。
荒唐無稽な予測なので、流石に他の武官たちも苦笑いをしている。
「そもそも三日以内に敵が本格的に攻撃を仕掛けてくるのかすら疑わしい」
「俺は我が国最高の智者の言葉を信じる」
「ほう。そこまで言うのならばコーメイとやらの予言が当たらなければエスリメ軍は我々の指揮下に入ってもらおう」
「良いだろう。だが逆に三日以内にに敵が攻めてきたらこの作戦書通りに動いてもらう」
「その言葉忘れるなよ」
そう言い捨ててシャクリーンは軍議をしている部屋から出ていった。
「シャクリーンは怒りんぼなの。更年期なの」
「ロメイア様」
「冗談なのー」
しかし見れば見るほど本当に予言のような作戦書だ。
敵が少しでも想定外の行動をすればその後の段取りが瓦解してしまうだろう。
本当に三日以内に敵は来るのだろうか。
啖呵は切ったが正直言って期待と不安が半々だ。
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