第161話
日課となったモンスター狩りをしているある日、壊滅した村を見つけた。
人口二、三百人程度の村で、兵士や大人の妖精族の死体と抵抗の成果の十数匹のモンスターの死骸があって、家々は焼け落ちている。
「酷いわね。皆殺しだわ」
「村から生命力チューチュー吸ってた人が言うことか?」
「む、昔の話よ!」
そこまで昔でも無いと思うんだけどなあ。
「ユースケ様、来ます!」
ソランが警告した途端、隠れていたモンスターたちが現れた。
数は数十体。死骸も合わせると小さな村を滅ぼすには十分すぎる数だな。
「殺れ」
「は!」
けどまあ、このメンバーなら負けない。
旅に付いてきているマスターたちは物理ファイターが多いからな。
ソランたちがとび出した中で、シースナだけは俺のそばに残っていた。
「どうした。行かないのか?」
「匂います。まだ生き残りがいるようです」
「ほう。連れて行ってくれ」
モンスターたちはソランたちに任せて俺はシースナが匂う場所へ向かう。
「ここです」
一見何もない所だったがシースナが地面の土を払うと、鉄で作られた頑丈そうな扉が現れた。
これに気付くとは、さすが獣人。並の人間より嗅覚が優れている。
「随分用意の良い村だな。開くのか?」
「鍵がかかってますね。こういうのはジョーカー様の担当です」
「あいつどこ行った?」
「お呼びですか?ボス」
ジョーカーはいつの間にか俺の隣にいた。
もうツッコまないぞ。
「ピッキングできるのか?」
「お任せを」
針金のような物を出して鍵穴に数秒突っ込んだだけでジョーカーは鍵を開けてしまった。
「ジョーカー、お前ダンジョンマスターになる前は一体何をしていたんだ?」
「クククッ。今は私の過去などどうでもいいでしょう。それよりも中を」
扉を開けてはしごを降り、今度は鍵のかかってない扉を開くと、十三人の少年少女と六人の赤ん坊がいた。
「大人はいないのか?」
俺の質問にウンディーネの少年が恐る恐る頷く。一番年上らしく、この少年がリーダー格のようだ。
大人たちは自分たちを囮にして子どもたちを匿っていたってことか。
「パパは?ママは?お兄ちゃんたちは誰?」
六、七歳くらいの少女の問に俺が黙っていると、察した年長の子供たちが泣き出しそうな顔になった。
我慢はしたのだろう。しかし、それもすぐに決壊し大きな声で泣き出してしまった。
年長の涙が伝播して現状を理解できていない子供たち、赤ん坊も次々と泣き出してしまった。
「出るぞ。うるさくてかなわない」
「…………冷たいのですね」
シースナが珍しく俺を非難するように言った。
「ちゃんと外で待ってやるさ。今は泣いてもいい。泣いて泣いて泣き抜いて、そこから前に歩き出せるかはあいつら次第だ。命懸けであいつらを守った大人たちに免じて、前に進む気があるのならその手助けはしてやるがな」
出来る事なら彼らの親を生き返らせてやりたい。しかし、俺が持ってるのは死ぬ前に持ってないと意味がない身代わり人形。
蘇生魔法は狂聖女しか俺は使えるやつを知らない。もちろん頼むことは不可能だ。
ショップにも蘇生魔法だけは無かった。
縁先輩なら間違い無く蘇生魔法を使えるはずだがこちらに至っては連絡がつかない。
本心を顔に出したつもりは無かったがシースナは微笑んで俺を見た。
「しかしボス、旅ににつれていくには人数が多すぎませんか?」
「何言ってるんだ。世話するのはエスリメにいる俺だよ」
外に出るとシースナはため息をついて見損なったように頭を振った。
普通に考えてエスリメで暮らしたほうが幸せだろう。全部丸投げしてる様に見えるのは否めないが。てか実際そうだしな。
「……フェアリースにいる間は俺が面倒見るさ」
地上は静まり返っていて、どうやらモンスターたちは狩り尽くされたらしい。
ソランたちを見つけて子供たちについて話した。
「なるほど。通りで子供の死体がないわけです。墓は作りましょうか?」
「ああ。だが少し待て。死体を一箇所に集めろ」
子供たちを待ってる間に、大人の死体を一箇所に集めた。
集め終わった頃、誰かが俺の後ろに立っていた。
「残酷な優しさだね雄亮君」
「……先輩、いつ来てたんですか。いや、そんなことより彼らを生き返らせることはできますか?」
「もちろんできるよ」
「なら」
「でもね。それはおすすめできないね。僕が見た限り子供たちはそれぞれの形で家族の死を受け入れる覚悟を固めようとしていた。なのに僕が今彼らの家族を生き返らせたら、もし次に同じことが起きた時に彼らは、同じように強い覚悟ができると思うかい?」
先輩は意地悪や冗談で言ってるわけではないのは目を見れば分かる。珍しく真面目モードだ。
「彼らが二度と起こらない奇跡だと理解できる大人ならば、まだ余地はあったんだけど。あの年の子たちは夢を見てしまうからね」
けど、できるのにしないってのは少し納得できない。なにより、俺は彼らの泣き顔を見てしまった。
「俺には…………まだ分かりません」
「君はまだ若いし、僕が言葉足らずなのもあるけど………………まあ、経験者の言葉だから覚えておきなよ」
それだけ言って先輩は帰ってしまった。
「あの人、何しに来たんだ?」
「さあ、あなたの道を示すためじゃない?」
「むしろより迷った気がするんだが」
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