第157話

『ドロドロに溶かさないでくださいぃ!』


 なんて脅かし方したんだ?ドロドロって……まあ出来ないことないけど。


「いやいや、そんなことしないから。俺の言う通りにすれば何もしない」


『逆らったらドロドロですか?』


 なんでドロドロにこだわるんだこの子。……鎧なのに子って言っちゃったよ。


「せいぜい胸の裏に無能鎧って刻むくらいだな」


『より酷い!逆らわないのでどうかそれだけは』


 ドロドロより酷いのか。溶かされるよりマシだと思うんだけどな。

 なんかビビリの少女の姿が鎧の後ろに見えてきそうだ。


「なあ剣」


『はい』


「なんでこいつ鎧のくせにビビリなんだ?」


 鎧って攻撃受けるからたくましく育つと思うんだけど。

 剣によると、鎧は一度も攻撃を受けたことがないらしい。


 盾がシスコンで鎧を徹底的に守ったそうだ。

 それがこのビビリ鎧を作り出したのか。


『剣のお兄ちゃんも守ってくれるよぉ』


『ふん、攻撃こそ最大の防御。鎧に傷をつけることこそ剣の名折れ。ただそれだけだ』


 備考、剣もシスコン(ツンデレ)。

 服をスーパーホーリースライムウェアに着替えて鎧を装備する。


 てか鎧が勝手に俺を包むから俺は突っ立ってるだけでいい。

 鎧を着て、帯剣してみんなの元へ戻ると、ソランたちが近づいてきた。


「ユースケ様、この鎧が」


「妖精の鎧だ」


「おめでとうございます!では、あとは盾だけですね」


「その盾が鬼門だがな」


 俺が肩をすくめて言うと、ソランたちは声を上げて笑った。


 ロメイアたちは俺が入れた財宝や、以前から入れられていた宝の前で騒いでいた。

 いや、騒いでいるのはロメイア以外だな。


 貯金箱を開けられたら俺の欲しいだけの中身をあげちゃうって約束しちゃったし、なにか入ってるのか分からなかったから開いた瞬間まで、開いたことと、中身に驚いていたが冷静になって、俺とロメイアとの約束を思い出して焦りだしたんだろう。


「剣と鎧は今気配を消してるな?出してくれ」


 妖精の剣と鎧が気配を出した途端、ロメイアたちはばっと俺のことを見た。


「ダーリン、妖精の剣と鎧なの?」


「ああ。剣がどうしてここにあったかは分からないが約束したよな?こいつらは俺が貰う」


「んー、仕方ないのー分かったの」


「ふざけるな!その剣と鎧は人族の、ましてやダンジョンマスターの持っていいものではない!」


 ロメイアが承諾しようとしたのを遮ったのはシャクリーン。

 シャクリーンを皮切りに何人かの家臣たちも意義を申し立てた。


「妖精の剣も鎧も妖精族の宝ですぞ」


「悪を討つための力をダンジョンマスターに渡してしまえば、いざという時に誰か立ち向かうのですか!」


 軍事関係のフェアリーとドワーフの家臣がそういった。

 たしかに彼らは正しい。俺が集める理由の中で最も大きいのが人間たちの俺に対する脅威の排除だから。他の理由は、面白そうとかかっこいからっていうしょうもない理由だがな。


「それにニアラの存在がある以上戦力は多いほうがいいでしょう」


 鎧だけならともかく剣があれば、ニアラの魔法無効のモンスターに対して大きく攻勢に出ることができる。

 それがわかった他の家臣たちも口をはさみ始めた。


「でも約束したの」


「しかし」


「そもそも妖精シリーズの装備は邪悪なものには使えないの。ダーリンを見るの。ちゃんと装備しているの。使えてることがダーリンが悪い人じゃない証拠なの」


 うーん、ノーコメント。

 ロメイアの言葉で、そういえば!って顔しないでくれ。ズルしてるから心が痛む。


「どうしてもと言うなら鎧と剣を差し上げてもいいですよ」


「本当ですか!」


「ただし、他の宝は全て貰います。逆に剣と鎧をくれるのなら、他の宝はすべてそちらにあげます。更にニアラとの戦いでは俺が先陣をきり、エスリメからも兵を派遣します」


 俺の出した条件にシャクリーンたちはゴクリとつばを飲み俺と、正確には俺の付けている鎧と剣と宝を交互に見て唸った。








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