第156話

 一週間後、俺はロメイアと妖精族の家臣たちを貯金扉の前に呼び出した。


「エスリメ王、何事ですか。我らも暇ではないのですが」


 シャクリーンが高圧的に不平を言う。まだ俺の事嫌ってるのかよ。


「今日はこの封印を解いてみせようと思ったので皆さんを呼び出させてもらいました」


「ハッ、封印をですか。高言をのたまうのならばそれなりの覚悟はお有りか?」


「もし俺の言うことが虚言だったならば焼くなり煮るなり好きにしろ」


「っ!」


 小馬鹿したように御託を並べるシャクリーンを黙らせて俺は箱の前まで行った。


「封印を解く前に一つ。封印を解くことができたら中にあるものを好きなだけ頂きたい」


「妖精王の名の元に許可するの」


 珍しく真面目なロメイアの重すぎる宣言を聞いて、俺が封印を破れるはずがないとニヤニヤしていた者たちがぎょっとした顔で彼女を見た。

 ロメイアの名に掛けた宣言は後から家臣の一存では破れないからな。


「ロメイア様、それは……」


「?皆はダーリンが封印を解けると思ってるの?」


 先程までバカにしてた手前、もし俺が封印を解いたら、と想像した奴らは悔しそうに口をつぐんだ。


 俺はアイテムボックススライムを箱の上に持ち上げて逆さにアイテムボックスを開かせた。


 アイテムボックスの中身がどんどん箱の中に落ちてゆき消える。入れる量と比例してメーターがどんどん光っていく。


 ここ一週間の成果だ。スミススライムたちにアダマンタイトで精巧な彫像をずっと作らせていた。


 ドワーフの職人ですら作れるか分からないような美しい彫像を無数に作り上げたスミススライムたちは心なしか達成感に溢れているようだった。


 アダマンタイトは馬鹿みたいに硬いから、刺す殴るだけの武器ならば何とか加工できるが、装飾を作るのには向いていない。

 ただでさえ材料の段階でお高いアダマンタイトの彫像だ。その価値は計り知れない。


 一個一個がアダマンタイトの剣よりメーターを光らせている。

 もしかしたら妖精の剣と同等の価値があるかもしれない。


 在庫がなくなりかけてやばいと思ってたところでメーターの全てが光り輝き、ごごごごと重たい音を立てながら扉は開いた。


「バカな!」


「今までどんな者も封印を解けたことがなかったのに……」


「あわわわわ、今まで開いたことが無いのが売りだった観光資源が……」


 驚きの声を上げる家臣たちの中で、インプの男とノームの女性が足をガクガクさせて震えている。

 確か観光大臣的な仕事をしてる人と財政を担ってる人だな。すまん。ドンマイ。


 貯金扉の中に入ると金銀財宝アダマンタイトの山でいっぱいだった。

 財宝はアダマンタイトよりも価値が低いのでメーターは少ししか光らせてないが量はほとんど同じだ。


 アダマンタイトを使っていなかったら多分扉を開けた瞬間に外に溢れ出てきただろう。

 俺に続いてヴァイオレット、ロメイアたちが入ってきて、家臣たちは恐る恐る続いてきた。

 どこまでも宝の山、いや海だな。奥が見えない。


 おーい、妖精の剣。迎えに来たぞー。


『主殿、ひどいですぞ。急に放り込むのですから驚きました』


 分かった分かった。ちゃんと鎧を見つけたか?


『やはりそれが目的でしたか。ちゃんと見つけて主殿のことを言っておきましたぞ。逆らうとどうなるかも』


 で?服従か反抗か?


『もちろん服従です。誘導するので来てください』


 妖精の剣の案内に従って貯金箱の奥へ行くと、妖精の剣とそれに似た意匠の鎧があった。


「お前が妖精の鎧か。これからよろしく」


『よ、よよよよよよ、よよよよ』


 鎧はひたすらよを連呼している。バグってんのか?


『よろしくお願い致しますだ』


『よろしくお願い致しまままます』


 鎧の声はまだ幼い少女のような声だ。

 剣より後に作られたと以前言っていたのだが妹ってことか?


『申し訳ない。どうやら主殿のことで脅かし過ぎたのやもしれません』







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