第150話

 妖精族は妖精王を愛し従う。

 種族間で仲の良い悪いはあるが、いざ外敵が来たとなると妖精王の名のもとに一致団結して立ち向かうのだ。


 言うなれば、妖精族の大陸が一つの国と言うことだ。

 彼らの団結力を示すように、大陸の中央の妖精王の城がある妖精王都フェアリースには全ての種族が住んでいる。


 フェアリースは空には常に虹がかかっていて、道は何色もの光が混ざりあった不思議な石が敷き詰められている。

 幻想的な街並みを抜けると、一見変わった城が現れる。


 木、岩、炎、水、光、闇、その他妖精族各種族の一番快適な環境を全乗せしているのだ。

 話だけ聞くと、ごちゃごちゃした城なのだがどういう訳か、じっくり見ると良い感じに調和しているようにも見えてくる。


「不思議な城だな」


「そう。すっごいのー。ロメイアのお城なの。ダーリンもっと褒めるのー」


「うん、すごいすごい」


 馬車の上で体を絡ませて、ほとんど俺を拘束しているような体勢のロメイアを褒めて頭を撫でた。

 そうするとロメイアは俺を解放する。


 うん、こいつの扱い方だんだん分かってきたぞ。

 城門まで行くと、ドワーフとサラマンダーの門番が誰何してきた。


「ここは妖精王様の城であるぞ!」


「お仕事ご苦労さまなのー」


「ろ、ロメイア様!?…………どうして人族に抱きついているのですか?」


「ダーリンなの。早く開門するの」


「は、はっ!開門!開門!」


 門番たちは、他種族を連れているロメイアを怪しむが自分たちの主には違いないので急いで開門の号令をかけた。


「ただいまーなの」


「ロメイア様だ」


「どこ行ってたんだ?後ろの奴らは誰?」


「さ、さあ」


 馬車を城の馬飼いに預けて俺たちは、城の中をずんずん進むロメイアを追いかけた。

 迷いが無く歩くその姿は、やはりこの城の者なのだと実感させる。


「ここがロメイアの部屋なの」


 左右に立っている、ウンディーネの兵士がどうすればいいのか分からずポカンと見ているのを無視して、ロメイアは精巧な装飾が施されている扉をバン!と乱暴に開けた。


「ただいまーなのー」


 ロメイアの部屋と言っていたが中を見れば王座に豪華なシャンデリア、何人もの臣下が難しそうな顔で議論していた。ここ王座の間だろ。


 議論していた中の一人、サラマンダーの性格きつそうなメガネをかけた女性が、ロメイアに気づき彼女を問い詰める。


「ロメイア様!一体どこに行っておられたのですか!」


「お花畑でお昼寝してたらモンスターに襲われたのー。だけど、ダーリンに助けてもらったの。はい、これあげるのー」


 女性の剣幕をどこ吹く風のロメイアは花で作った冠を女性の頭にぽす、と置いた。

 そんな事やったら火に油じゃ……。


「し、仕方ありませんね。はい、これおやつですよ」


「わーい、なの」


 許すのかよ!しかもあげたおやつってエスリメで売ってる金平糖じゃねえか。


「甘いのー。シャクリーン、ありがとうなの」


「いえいえ」


 先程のきつそうな印象だった仏頂面がドロドロに溶けただらしない顔になっている。

 妖精王は全ての妖精族から愛される……なるほど、こういうことか。


「…………ダーリン?」


「どういう事だ?ロメイア様が後ろの者たちの誰かと結婚するということか?」


 ロメイアのダーリンという単語が引っ掛かった後ろの臣下たちがどよめく。

 シャクリーンもそれに気づき俺の顔をじーっと見つめてきた。


「あっ!」


 しばらく俺の顔を見てハッとした顔になって声をあげた。 


「シャクリーン殿、どうしました?」


「エスリメ国王……」


 金平糖を持ってたから、もしやと思っていたが俺の顔を知っていたようだな。

 他の臣下も遅れながら俺の正体に気づく。


「そうだ。エスリメ国王だ」


「エスリメとは先日ウォルテニアとの戦争を一日で勝利したと言う国か?」


「間諜が入手した写真と言う姿絵と瓜二つだ」


 臣下の一人が兵士を呼んで俺たちを取り囲んだ。


「ダンジョンマスターがロメイア様に何の用だ!」







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