第144話
街の歩道は先程の彼らのような冒険者や旅行客が多い。
この街の住民の日常的な移動手段はテレポートゲートだからだ。
テレポートゲートは番号付けされていて、住民たちは普段使う番号を覚えているが慣れてないものが使うと、意味分からん場所に出て迷子になることが多い。
国民以外はテレポートゲートは有料なので、外国人の主な移動手段は無料のバス、電車、モノレールだ。
テレポートゲートよりこちらの方が珍しいのか案外好評だ。
国民の中には、街の景色を見たいからわざわざ時間のかかるそれらで移動する酔狂な者もいる。
はしゃぎ過ぎて流石に疲れたジーナを抱っこしながら俺は、電車の駅に行った。
「かんかん!かんかん!」
ジーナは乗り物が好きで中でも電車が一番好きなので俺の腕の中でテンションMAXで暴れ始めた。
ちなみに電車をかんかんと呼んでいる理由は遮断器の信号がカンカンカンと音がなるからだ。
「おっと、かんかん来たぞ。乗ろう」
「んっんっ」
電車に乗ると、ジーナは小さな腕を振って吊り輪を指差した。
掴ませろって催促かな?
「はいはい。ほーら」
「きゃー」
嬉しいのか吊り輪を掴んだ手をぶんぶん振り回した。
この荒ぶってる可愛い娘を乗客たちは微笑ましそうに見ていたが何人か俺を見て、ぎょっとした表情をしていた。
恐らく彼らはエスリメ国民だろう。電車乗ってたら娘連れの国王が居たのだ。驚くのも無理はない。
彼らは俺が電車を降りるまでチラチラと視線を向けてきたが結局何も言ってこなかった。
こっそりスマホで撮影する奴がいたから明日のニュースの見出しは【ユースケ国王、王女と仲睦まじく電車に】ってとこか?
しかし、許可も無く撮るとは……俺って舐められてるのか?それとも親しまれてるのか?
できれば後者であってほしいな。
「あのー、あなたは国王様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうですが」
道を歩いていると女性に話しかけられた。
「やっぱり!私はこういう者です」
彼女が渡してきた名刺にはエスリメ新聞社記者ソーナと書いてある。
エスリメ新聞社は孔明が作った新聞社で主にエスリメに関係する記事を載せる新聞を発行している。
うちの国では珍しく、ヒューマンスライムが関わってない組織だ。
「本日は陛下に取材の申込みをしたいのですが…………プライベートな時間は駄目でしょうか?」
ここで断ったら後で孔明にグチグチ言われそうだな。
それよりも断った事を記事にされたらイメージダウンになるんじゃないか?
「別に、構わないぞ」
「ありがとうございます!」
俺がジーナと散歩中なのを伝えると、歩きながらで構わないと言ってきたのでそのまま取材を受ける。
「お子様がいらっしゃいますが、どなたが後継者になるのですか?」
「今の所決まってない。子供たちの誰かが国王になりたいなら、然るべき教育を受けさせて一人前になればいつでも譲る。居なければそのままだ。俺不老だし」
「なるほど!ズバリこの子のお母様は誰ですか?」
「俺の子はみんな養子だよ。母親は居ない」
「ふむ、独身と」
え?何?俺に奥さんいないって情報って需要あるの?
あ、俺国王だな…………こんな情報広めてから近づく女なんて皆財産目的じゃね?
「お付き合いしている女性は」
「…………いない」
「ジーナ、ぱぱのおよめさーん」
ジーナが俺の足にしがみついてそう言った。
はわわ、うちの娘天使すぎるわー。
「幼女趣味っと」
「違う!」
俺が声を荒げると、ソーナはころころと笑いながらメモを破った。
危うく俺がロリコンっていう嘘記事が国中にばら撒かれるところだった。
この記者ふざけてないか?
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