第143話
「じゃあ言うことは言ったし僕は帰ろうかな。おい神よ、他の奴が雄亮君にちょっかいを掛けるのは本人の希望だから目を瞑るけど…………お前が何かしたら消滅させるからな。昔と違ってお前はもうこの世界に必要な存在じゃないのだから、僕は容赦しないぞ」
「はいぃ!肝に銘じます!」
「えぇ?ダンジョンマスターを使えば良い?………………しまったぁ?」
縁先輩が意味の分からないことを言うと、父の顔色は蒼白になった。
まさか心を読んだのか?どこのパワハラ会議だ。
「いいか?僕はお前がいつ何をしたのかなんてすぐに分かる。それを忘れるな」
「…………」
「返事はぁ!」
「ひっ、はひぃ!」
初めて見る先輩怒った姿に怒られてる当人だけではなく、俺も縮こまった。
小学校の時とか自分が怒られてるわけでもないのに教室で先生が怒ってたらびくってなるよな。それと同じ感じだ
「よろしい。それじゃあね」
先輩が笑顔で俺に手を振って帰った後も父は恐怖で震えていた。
「……ドンマイです」
「あの方は、あの方は本当に容赦が無いんだよ。ユースケ君があの方のお気に入りじゃなかったら今頃どうなっていたことか」
「はあ、よく分かりませんが。あのー、俺もう帰ってもいいですか?」
先輩は基本怒らない人だ。その先輩の父に対する態度を見ると、昔の父は何か先輩に相当嫌われるような事をしたのかもしれない。
「ああ済まないね。そうだ。もう一つ言うことがあった」
「何ですか?」
「絶対に死なないでくれ。あの方の怒りの巻き添えで死にたくないのだよ」
顔が見えないが、父は今必死の形相をしているのだろう。
これがこの世界の神の一人なのかと情けなく思う一方、仮にも神の力を持っている父を一方的に脅せる先輩がどれほど恐ろしい力を持っているのか気になって仕方がなかった。
「ユースケ!何があったの?」
パーティー会場に戻るとヴァイオレットたちが心配そうな顔で俺のもとへ駆け寄ってきた。
「大丈夫。父に呼ばれて会ってきただけだから」
「マスター、私にも何も言わないとはどういうことですか!」
ヴァイオレットの後ろからコアちゃんが出てきて俺の腕をグイグイと突いてきた。
コアちゃんは父ではなく縁先輩に作られたダンジョンコアだ。周りは兄弟ばかりなのにそこで一人にされるのは寂しかったのだろう。
俺は素直に謝った。
「次からは気をつけてください!」
俺が笑って了解と言うと、コアちゃんはぷくーと頬を膨らませてそっぽを向いた。
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「お忍びで街を散歩しようと思うんだが」
パーティーから帰ってきた俺は、ふと孔明に提案した。
「良いんじゃないですか。国民の生活を直に見て知るのも王の務めでしょう」
そんなこんなで街を見て回ることにした。
子どもたちは家においていこうとしたのだがジーナだけぐずり始めた。
「ジーナもいくのー」
「えぇ?ジーナちゃん、歩くだけだよ?」
「いくー!」
「はいはい」
まあ良いか。ジーナは子供たちの中で一番あんよが上手だからな。
ジーナを歩きやすい服に着替えさせて靴を履かせると、奇声をあげて走り出した。
「きゃー」
「あ、こら。待ちなさい」
元気なのはいい事だけど迷子にはならないでくれよ。
何とかジーナを捕獲して手を繋いで街を歩く。
車両がバスのみなこと以外は至って普通の日本の都市だ。
「ぱぱ、ぶーぶ」
「そうだね。ブーブ走ってるね」
信号が赤になったので止まっていると、後ろから声をかけられた。
「あのー、どうして皆さん止まってるのですか?」
見ると冒険者のパーティーだった。
人族が四人、魔族が一人。魔族がいるのは珍しいな。
信号が分からないということはここに来たばかりなのか。
「あれを見てください。あれは信号と言って、こっちが赤の間はあっちが青色になってますよね。逆にこっちが青の時はあっちが赤になります。青のときは進め、赤の時は止まれという意味なんですよ」
「へぇー、そういう事だったんですか」
「凄えな。皆ちゃんとルール守ってるぜ」
「ラクト、あんた入国の時に聞いてなかったの?この国でルールを破ったらゴーレムがこの指輪から出てきて捕まえてくるのよ」
「まあまあ、ラン。そう怒らないでよ。兄さんの頭が残念なのは知ってるでしょ?」
最初に話しかけてきた人族の少年と頭が残念らしい青年は兄弟みたいだ。
弟の方は普通の見た目だが、兄の方はオーガーかと見間違えるほどガタイが良い。
「すいません騒がしくて。ところで冒険者ギルドの場所はご存知ですか?」
「この通りを真っ直ぐ行って五つ目の信号を左です」
「ありがとうございます。それじゃ僕たちはこれで」
「ばいばーい」
ジーナが手を振って五人を見送ると、彼らは恥ずかしそうに手を振り返した。
「ジーナちゃん。ばいばいできて偉いね」
「うん!ジーナいいこ!」
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