第140話

 しかしコロシアムは悲惨なことになった。

 どこもかしこも刀で傷つけたような跡がついている。

 とてもじゃないが築数日とは思えない。


「素材から見直すか。観客席の保護も必要だな」


 その後俺が作り直したコロシアムを見た冒険者や商人は自分たちの目を疑うことになる。

 なぜならば建物は全てアダマンタイト製、それに加えて余波止めの超高性能な防壁を張ることができる魔道具が至る所に設置してあるからだ。


 宝物庫の噂と一緒にこれを見た人から人へ伝わっていき、エスリメの底知れない財力は各国の知るところになる。



 ■□■



「やっべぇな」


 俺が来ていたのは人界の最も下。すなわち魔界の一番高い所だ。

 魔界は太陽が無く、月みたいな明るさの球体がいくつも浮かんでいる。


 地面は赤黒く、生命の息吹を感じることはできない。

 どうしてこんなところにいるのかは簡単だ。ついに直下掘りスライム組が人界の大地をぶち抜いてしまったのだ。


 人界の大地は地球の直径よりも長いのだが、とうとうやりやがったなこいつら。

 やらせたのは俺なんだけどな!


「ふむ、この下が魔界か……生命が生きるような所ではないな。余の世界とは違う」


 付いてきたマオが穴を覗き込んで感想を言った。


「そっちはどんな感じなんだ」


「普通に緑も山も海もあったぞ」


 それじゃあこの禍々しい魔界像ってのは数ある異世界の中では少数派なのかもしれないな。

 今は関係ないか。

 海っぽいのはあるにはあるが、赤い。血の海か?魔界より地獄みたいな所だな。


「さって、これからどうするか?」


 人界と繋げられなくもないが、魔界は人界から落ちてきた者やその子孫、そして人界とは比べ物にならないくらい強いモンスターが沢山いる。


 そしてあの魔王の爺さんがいる。

 と言うよりかは魔界を統べる者が魔王の爺さんなのだ。魔界のダンジョンは魔王の配下しかいない。特に繋げるメリットがない。


 今魔王の同盟と戦っても勝てない。

 だって総合ランキング一位二位三位がいる同盟だぞ。二桁のダンジョンマスターも沢山いるし、Lランクモンスターだって居るだろう。


 こちらから魔界に繋げてしまったらあちらからいつでもダンジョンバトルを申し込めることになる。


「とりあえず何匹かスライムを落として情報収集してみればいいんじゃないですか。情報は千金に値しますから」


 孔明の言うとおり数種類のスライムを魔界に落として穴は軽く蓋をして放置することにした。

 老師しかりマスターソードしかり。この世界の爺は十分な警戒を持って当たらないと痛い目を見ることになる。


「この世界の魔王に会ってみたかったのだが、残念だ」


「やめてくれ。本当にあの爺さんヤバイんだから」


 蓋をしたはいいけど、一つ困ったことになった。今俺たちの周りには大量の土系スライムがいる。

 こいつらの運用をどうするかだ。


「横に掘れば良いでしょう。いっそのこと人界の全てをエスリメの領地にしてしまっては?」


「それ問題ないか?」


「何を今更……バレなければ犯罪にはならないんですよ」


 到底一国のナンバー2の言う事とは思えないな。

 逆か?ナンバー2だからこその提案か。


「横か……いっそのこと敵の地下ダンジョンを拡張できないように周りに広げてダンジョン壁にしてやるか」


 完全に迷惑行為だがバレない。孔明先生曰くバレなきゃ犯罪じゃないのだ。

 恨まれてダンジョンバトルを申し込まれることは無いはずだ。多分。


 俺の命令を受けたスライムたちは周囲に散らばって周りの壁を食い始めた。

 集団恐怖症には注意しないといけない絵面だ。

 家に帰ろうと転移するためにメニューウインドウを開くとスマホが鳴った。相手は老師だ。


「もしもし」


『ユースケ様、父のパーティーが決まりましたじゃ』


 そういえばパーティーからしばらく経つな。

 前とは違って俺は同盟を作ったし、規模も大きいから変なマスターに絡まれないようにしなければ。


「いつだ?」


『明日ですのう』


 父!こっちの都合も考えろよ。






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