第139話

 マオが先輩に怯える理由は、急に喚び出されて半殺しにされた挙げ句理由も知らされずにここに連れてこられたからだそうだ。


 あの人結構自分の中で完結させて理由も満足に説明せずに動く癖があるからな。

 それに半殺しにされたら怯えるわな。


「ケアパケ頂き」


「ぬ、よこせ」


「早いもの勝ちですよー」


「均、こいつ殺して物資にするか」


「そうですね」


「おい!」



 ■□■



「流石にこのまま居候はまずい。何か余に仕事をくれぬか?」


 マオが先輩に拉致られてきてから二ヶ月経ったある日、とうとう彼はそう言った。

 自ら働こうとする気概は買うのだが、遅すぎないか?


 二ヶ月もずっと食っちゃ遊び食っちゃ遊びの超羨ましい生活をこいつは送っていた。

 ここに慣れるまではと目を瞑っていたが、せいぜいニ、三週間程度だと思ってたのに、一向に動く気配がなかったから根っからのニートではないかと疑う程だった。


「よくぞ言ってくれた!実は二つ任せたいことがあるんだ」


 一つ目の仕事は、第二迷路のボス。蓮たちを放っておくと、いつ第二迷路が突破されるか分かったもんじゃない。突破されること自体はいいけど早すぎるのも考えものだ。


 マオは縁先輩に半殺しにされたものの、一つの世界を危機に陥れるほどの強者だ。そうやすやすと蓮たちには負けないだろう。


 二つ目の仕事は、闘技場、コロシアムを作ることなったがそこのトップをしてもらう事だ。

 コロシアムを作ることになった経緯を話そう。


 まずスライムダンジョンは気を付けさえすれば低ランクの冒険者でも死なないような難易度だ。

 できるだけ死者を出さないようにという俺の気遣いなのだが、高ランク冒険者からは不満が出てきた。


 張り合いがない、修行にならないと。

 強者と戦える場がほしいらしい。


 そこで作ったのがコロシアム。S〜D級までランク付けしていて、勝って昇格ポイントを集めることで上の級に行くことができる。


 Sランクの昇格ポイントがたまりきったとき、マオとの対戦権が得られるという仕組みにしようと思う。


「頼めるか?」


「いいだろう。余も運動は好きだぞ」


 運動って……まあボスの時もコロシアムの時も双方蘇生アイテムを持たせてやるから、運動とも言えなくはないか。

 それはそうとマオって具体的にどれくらい強いのだろう?


「マオ、ちょっと手合わせをしてくれないか?」


 勝負は一瞬だった。

 作りたてのコロシアムまで行って勝負開始の合図をした瞬間、数十メートル離れていたはずのマオが目の前に現れて意識が飛んだ。


 目が覚めるとアダマンタイトアーマーが粉々になって俺は横になっていた。

 蘇生アイテムの身代わり人形が壊れている。

 え?俺死んだの?即死?アダマンタイトアーマー壊された上に即死?


「ううむ、まだまだ調子が出ぬ。ユースケ、もう一戦やろう!」


「ヤダ無理死ぬ。配下召喚マスターソード」


 このままだと命の危険があると判断した俺は、マスターソードを喚び出した。


「なんだぁ?どした坊主」


 俺がマオとの戦闘を頼むと戦闘バカは快く首を縦に振ってくれた。


「異世界の魔王と殺り合えるなんてな。腕がなるぜ」


「ユースケ、こやつは?」


「うちの最強戦力」


 そそくさと観客席に逃げて試合開始と言って、二人を見守る。

 見えねー。二人が消えたと思ったらコロシアムの至るところでドン!ドン!と何かがぶつかる音がする。

 アニメで見たことあるぞこれ!


「ほう、中々やるじゃねえか。俺様の本気を出してやる」


「ようやく調子が戻ってきた。余もまだまだやれるぞ」


 声だけ聞こえて突然、マスターソードの剣を真剣白羽取りするマオが現れた。


「ユースケ借りるぞ」


 マオが落として放置していた俺の剣を拾い上げてマスターソードと鍔迫り合いを始めた。

 何で剣聖と剣で渡り合えるんだ?

 鍔迫り合いの余波が何故か斬撃になってコロシアムを傷つけまくる。

 建てたばかりなのにー!


「俺様と剣技で並ぶとはな。自信無くすぜ。お前名はなんという?」


「マオ・リンター。貴様は?」


「マスターソード。元剣聖だ。よろしく」


 なんか勝手に試合終了してがっちりと握手しているが、とりあえず助かった。

 もう少しで戦いの余波に巻き込まれてもう一回死ぬところだった。








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