第138話

「雄亮君、頼みがあるんだけどちょっといいかな?」


「良いですよ先輩、そちらの方は?」


 蓮パーティーが来るのに備えて、俺が第二迷路の難易度を少し下げる作業をしていると、縁先輩が角の生えた魔族らしき少年を引きずりながら空間のゆらぎの中から出てきた。


 少年の服はボロボロでどこか哀愁を感じさせる空気を出している。


「ありがとう。実は頼みってのはこれのことなんだ。偶然召喚された他の世界で捕まえたんだけど…………この魔王の世話してくれないかな?」


「すいません、もうちょっと詳しく説明してくれませんか?」


 先輩の詳しい説明によると、いつもは自分から異世界転移していたが偶然先輩の友人が異世界召喚されて、先輩は近くにいた為巻き込まれたらしい。


 先輩と先輩の友人は魔王を倒す勇者としてどこかの王宮に召喚されたが、先輩だけならばすぐにでも帰ることができた。


 しかし友人を放って帰るわけにもいかないので、先輩は召喚してきた王の目の前で魔王を強制転移させて、友人に倒させたふりをして連れて帰ったそうだ。


「でもさーあれじゃん?うちにはもう魔王居るんよ。流石に二人もいたらキャラ被るからさー、こき使っていいからここに置いてやってくれない?」


「そんな犬猫の感覚で言わないでくださいよ。ほら、魔王さんもなんか言ってください」


「うっ、え、縁殿、やはり」


「え?なんか問題あるの?」


「いえ、ありません」


 弱いなー。一瞬で魔王さん屈しちゃってるよ。

 少し涙目になってるし、先輩はこの人に一体何をしたんだ?


「んー?別になにか言いたいことがあるんなら言ってもいいよ。僕も君を無理やり拉致しちゃった訳だし、できることならするけど……」


「い、命を助けていただいた以上に望むことはありません!」


「そう?ならいいんだけど。雄亮君、彼のことは頼んだよ」


「あ、はい。分かりました」


 縁先輩は魔王の私物が入った袋を彼に渡して帰ってしまった。

 あの人は自分のやってることの異常さに気づいているのだろうか?


 うーん、気づいているけどあえて無視してるだけな気がする。

 残された俺と魔王は気まずい空気の中互いを見てため息をついた。


「そのー、これからよろしく」


「う、うむ。世話になる」


 座ってじーっとこれまでのやり取りを見ていたセシルとロイドが、気にすんなよ!みたいな感じでぽんぽんと魔王の足を叩いて励ました。

 ホロリと魔王の目から涙がこぼれた。




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「雄亮さん、135方向に三人居ます。撃って牽制してください」


「ほいほーい」


「マオさん、N方向にSRが居ます。狙われてるので射線切ってください」


「分かった」


 縁先輩に連れてこられた魔王、マオ・リンターはエスリメでの生活に早くも順応していた。

 マオは力は強いが、趣味はインドア派でエスリメに来てからはもっぱら俺たちとゲームをしたり、漫画やテレビを見て充実した生活を送っている。


「キル入れた。即死だな」


「ナイスゥ」


「スリーオンワンオンツーかスリーオンワンオンワンオンワンですね。動かずやり合わせましょう」


 最近のマイブームはバトロワゲーだ。一つの島に百人くらい降りるよくあるやつ。

 均はチームプレイの時は未来予知を使わないからそれぞれの立ち回りが重要になる。


「気絶入った。ワンオンツーだな」


「確死が入ったら出ましょう」


 平原で敵が潰し合ってる間に俺たちは隠れていた家を出て、戦いやすい高台の岩の後ろに行って待機する。


「キルログ出た、撃て撃て」


 三人で生き残った一人を一斉射撃する。

 相手も撃ち返してきて俺が気絶させられたが、マオが相手をキルした。


「殺った」


「GG」


 勝ってロビーに戻ったところで隣にいる二人とハイタッチをした。


「完全に漁夫でしたね」


「全て余たちの立ち回りの結果だ」


「そゆこと」


 少し今回の感想を言い合って、もう一度マッチングを始めた。

 マオは最初こそよそよそしかったが、今では実家のように隠し層のゲーム部屋で寝泊まりしている。


「なあマオ」


「なんだ?」


「元の世界に帰りたくはないのか?あ、そこにARあったぞ」


「うむ取った…………帰りたくないと言えば嘘になる。だが、余の世界のモンスターは余に引き寄せられてしまうのでな。あの世界には余は居ないほうがいいのだ。回復持ってるものはいないか?」


「あげましょう。何か良いことの様に言ってますけどマオさん、正直こっちの方が居心地いいと思ってますよね」


「感謝する。まあここならば余は誰にも迷惑かけないからな。飯もうまいし娯楽は豊富だ。それにあの方の近くは圧がすごいからな」






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