第135話

 ウォルテニアの件があらかた片付いたあと、俺は勇者たちと会っていた。

 自由の身となった三人の勇者だが、それぞれ別の道を行くことになったらしい。


 誠司はウォルテニア国の王になった。人質にされていた家族の娘と結婚したと言っていた。

 年は15歳も離れているが…………まあ恋愛なんて人それぞれだし、奥さんの方も幸せそうだから素直に祝福しよう。


 蓮は自分は何をやりたいのか分からなくなったからエスリメに住むそうだ。

 復讐が一段落ついて燃え尽き症候群になったみたいだ。


 ただ、蓮の両脇には二人の女性が寄り添っていた。

 は?死ねや…………ごほん。彼女たちを助けるために蓮は頑張ったのだから二人と生きていくためにもう一度立ち上がると俺は信じる。


 さて、三人目の一番若くてウォルテニアへの恨みも一番少ない光だが。


「僕はダンジョンマスターと、いいえ、人を殺したあなたと馴れ合う気はありません」


 戦争が終わってからずっとこの調子なんだよ面倒くさい。


「犠牲は最小限に収めた」


「本当ですか?あの兵力なら敵に犠牲を出さずに降伏させることも可能だったのでは?」


 痛いところをついてくるな。

 そりゃ時間をかければできない事もない。だけど今回は各国にエスリメの力を示すため、エスリメがウォルテニアに短時間での圧倒的勝利と言う成果が欲しかったからな。


 そもそも敵の死者が数%の時点でかなり情けをかけている。

 それを説明するが光はどうしても俺を悪者にしたいようだ。


「雄亮気にしないでくれ。戦争を知らないガキの戯言だ」


「何ですか!」


 蓮と光が口喧嘩を始めてしまった。


「だったら僕は旅に出ます!この世界を見て回ってこの人が間違っていると証明してみせます」


 とうとう光が言ってしまった。

 どうしてそこまで俺を嫌うのだろうか?人質を取られていたから少ないがウォルテニアには恨みを持っていたはずなのに…………なんで?


「旅に出るって……セラさんはどうするんだ?」


 俺が気にかけたのは、光の人質として囚われていた少女セラ。

 身寄りもなく、光を兄のように慕ってる彼女をこいつはどうするつもりなのか。


「もちろん連れていきますよ。この子を一人にしておけませんから」


 ぎゅっと光はセラの手を掴んで言った。

 セラもこくこくと頷く。

 ヒロインも居て、勇者たちはやっぱり主人公だなあ。羨ましい。


「だったらこれをやる。餞別だ」


 俺はセラに腕輪を、光にアイテムボックス袋を渡した。


「…………あなたの施しは」


「良いから受け取っとけ。ただが嫌なら今回協力してくれた報酬だと思え」


「……分かりました。後で返せって言っても返しませんからね」


 セラが腕輪を気に入って付けたのを見て、自分もしぶしぶ袋を腰に結びつけた。


「それでは僕は行きます。蓮さん誠司さんお元気で」


 セラの手を引いて光はエスリメを出ていった。


「どうして彼は俺のことを目の敵にするのでしょうか?」


「きっと羨ましいんだろう」


「羨ましい?」


 誠司さんがどういう意味で言ったのか分からなくてポカンとしていると蓮が口を開いた。


「雄亮は俺たちと同じように日本から召喚されたのに、最初から自由だったし、周りの人間も良い人たちだ。どうしても嫉妬はしてしまうだろう。誠司さんもだろ?」


「まあ、な」


 自分たちは大切な人が人質に取られて言いなりにさせられているのに、どうして俺だけ自由なのかってことだろうか?

 自分が勇者たちと同じ立場だったらと考えると納得できた。


「ところで二人に送ったのは何だったんだ?」


「セラさんには腕輪に偽装した魔道具。中に護衛のアダマンタイトゴーレムが入っていてセラさんが重傷を負ったらここに転移する魔法がかけられている。光にはあいつの好きなシリーズのゲームのカセットと本体」


「へぇ。意外と良いもんあげたな」


「それほどでも。少し心配だったので」  


「でもあいつは勇者だぜ?」


「なんかあいつのキャラ的に闇落ちして戻ってきそうじゃないですか?」


「…………」


 だから少しでもあいつが闇落ちする可能性を減らす。

 光の大切なものをできるだけ守る為のセラの腕輪だ。


 ゲームは……俺を生かしておけば新作が手に入るぞって意味で渡した。

 これで俺恨みを向ける可能性は……駄目か?








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