第132話

 ダンジョンマスターたちが待ってる司令室に行くと同時に、ウォルテニア軍がこのときの為に作った膝ほどまでの草が生い茂る、だだっ広い平原に転移してきた。


「ひとまず勇者たちは約束を守りましたね。ざっと4、5万ってところですか。この数なら属国の守りは最低限まで削ってるようですね」


 強さも最低でもDランク冒険者程度の強さだ。

 精鋭を投入してきたな。


「よし、均と老師は勇者と合流して人質を救出してくれ」


「了解」


 人質救出には未来予知で人質の場所を探る均とその護衛のゴ老師だ。

 気づかれると人質が危険にさらされるから少数だ。


「次に属国攻略担当。用意はいいか?」


 ウォルテニアの属国は全部で17国。それぞれにダンジョンマスターの大将と副将、2メートル級アダマンタイトゴーレム百体、オリハルコンゴーレム二百体、ミスリルゴーレム七百体を向かわせた。


 攻め落とすだけなら過剰戦力だが、これは攻め落としたあとの治安維持のための兵力だ。

 攻めるだけ攻めて、めちゃくちゃにしてさようならだと外聞が良くないからな。


『はい!』


「よし、攻め込め。作戦通りにしろよ」


『好戦的な指揮官を優先的に狙うですね』


「ある程度の数の指揮官は残せよ。降参できなくなって死兵になられると困るからな」


 さあ、次はダンジョン内の本体だ。


「ホログラムプロジェクターは使えるか?」


「いつでもいけます」


「起動しろ」


 建国宣言のときに使った俺の立体ホログラム映像を平原に居るウォルテニア軍全体に見えるように映し出した。


 巨大な半透明の人間が現れて弓や魔法で攻撃してくるが、ただの映像なので当然全て通り抜けて地面に当たるだけだ。

 慌てだしたウォルテニア軍に俺が話しかける。


「勇敢で愚かなウォルテニア軍よ。余はエスリメの王の五十嵐雄亮。諸君も気づいているだろうが、三人の勇者は余と手を取った。我が領内に攻め入った諸君は万死に値する。しかし余は寛大だ。これから諸君を蹂躙するが、武器を捨てて両手を上げれば戦闘中でも命は助けて捕虜として丁重に扱おう。何なら今すぐ降参しても良いぞ?」


 流石にまともに戦ってすらいないのに降参するという腰抜けは居ない。

 むしろこれを挑発と捉えて味方を鼓舞し、士気を上げようとする部隊長らしき騎兵も居る。


「なるほど、それが諸君の答えか……ならば」


 俺が片手を上げて合図を出すと、液化して塀に潜んでいたアダマンタイトスライムフル装備のヒューマンスライムたちが元の姿に戻って先程兵たちを鼓舞していた部隊長たちを切り捨てた。

 そしてすぐに煙幕を使って撤退する。


 残った指揮官は降伏を視野に入れられる者や、自分は助かりたい臆病者ばかり。

 兵士たちの中では強気なことを言っていた指揮官たちが一瞬で物言わぬ骸に変えられたことで混乱が生じている。


「マジックスライム部隊、威嚇射撃よーい…………撃て!」


 草の下で隠れていたマジックスライムたちによる数千、数万の魔法の雨がウォルテニア軍に降りかかる。


 威嚇射撃なのでちゃんとマップを見て誰もいないところに当たるようにしてるから、動かなければ当たる心配は無い。


 ただ、大量の魔法にビビって逃げようとした奴に当たってしまうが、そこまで敵に気を使ってもいられない。

 この攻撃のお陰で数十分後、左翼の将が左翼軍の全面降伏を申し出てきた。


「ウォルテニアにも賢明な指揮官が居たんだな」


「彼は此度の出征に最後まで反対していましたからね。さしずめウォルテニアの良心です」


 左翼軍の将にヒューマンスライムを通してこちらの指定した場所に誘導すると素直に従ってくれた。


「第二威嚇射撃、撃て」


 左翼軍の突然の戦線離脱を止めようとした中央軍と右翼軍に再び魔法が撃ち込まれる。

 流石に精強な軍隊なだけあってしっかりと防御され、今度はマジックスライムが居ると思われる地点へ魔法と矢が放たれた。


 やり返されてしまったが、目的の足止めは成功した。

 俺の指定した所に来た左翼軍に指輪の入った箱をいくつも渡して、指輪を付けた者から順にテレポートゲートで一時的な収容所に送った。






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