第129話
神聖国ウォルテニア、その玉座の間には王と臣下たちがいた。
そこにいる者は若者、年寄り、痩せてる者太ってる者、様々な姿であったが精神が腐ってるという点においては共通していた。
「陛下、勇者共が帰還致しました」
「通せ」
通された勇者たちはまるで畜生を見るような視線に耐えてるのだろう歯を噛み締めている。
勇者は三人。42歳の岩井誠司、23歳の秋原蓮、18歳の渡光。三人を代表して誠司が前に出て拳を左胸に当てて敬礼した。
「ダンジョンより帰還、エスリメの街の中央に転移座標の設置成功致しました」
「うむ、下がれ」
王が犬猫を追い払うように、しっしっと手を払うあまりな態度にかっとなった蓮が前に出るが、光に肩を掴まれ止められた。
それに目をつけた臣下の一人が口を荒げる。
「貴様、王の御前であるぞ!」
「何だ?貴様ら余になにか不服でもあるのか?」
太った体のせいで窮屈な玉座でごそごそと姿勢を動かしながら王が言った。
「いえ、我らに不服などありません」
「そうだろうそうだろう。なにせお主らのような化け物のことを有効に使ってやってるのだからな」
「……………………………………………………おっしゃるとおりで御座います。失礼しました」
喉元まで上がってきた言葉を飲み込んで、今にも暴れそうな蓮と光の肩を引っ張って誠司は玉座の間から立ち去った。
そんな彼らを見て王と臣下たちは嘲笑を浴びせるだけであった。
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「くそっ!」
蓮が大木を殴りつけると轟音を立てながら大木は吹き飛んだ。
王宮から出た勇者たちは人目のつかない森まで来て密会していた。
「蓮さん、そんな大きな音立ててたら密会の意味無いですよ」
「分かってるよ!だけどよぉ、自分たちが召喚しておいて有効活用だと?化け物だと?ふざけんじゃねえよ!」
蓮は森に響くような大きな声で吠えた。
「だから大きな音立てないでくださいよ!」
「お前ら落ち着けよ。蓮、俺はお前の気持ちがお前以上にわかる。俺に免じて今は抑えろ」
誠司に諭されどかっと地面に腰を下ろして蓮はため息をついた。
蓮が切れて誠司が諌める、いつものパターンだ。
「くそっ、人質が居なければあんな奴ら」
「だから雄亮の誘いに乗ったんだろ」
これ以上意味のない愚痴を言い続けると二人に本気で怒られそうなので蓮は黙った。
「だけどダンジョンマスターの言うことなんて信用できるんですか?人類の敵なんですよね?」
「俺はあの糞共に復讐できるんなら悪魔だろうとダンジョンマスターだろうと誰の手でも取るさ」
「蓮と同じく。もう奴らの言いなりはたくさんだ」
誠司は召喚されて18年、蓮は6年もの間戦争の手伝いを無理やりやらされてきた。自ら敵を殺したこともある。
召喚されて1年半でまだ戦争にも行ったことのない光とは積み重ねた悔しさと憎しみの質が違うのだ。
「そうですか。先輩の蓮さんと誠司さんの言うことですし、人質もありますから僕は二人に協力しましょう。でもダンジョンマスターの味方だなんて……」
「ちっ、戦争を体験してもいない甘ちゃんが何言ってんだ」
「何なんですかその言い方は!」
「あ?やんのか?」
二人が互いの胸ぐらを掴んだその時だった。
「黙れ!」
珍しい誠司の怒鳴り声にビクッとなった二人は手を離して離れた。
「いいか、これが俺たちの自由になるための最初で最後のチャンスだ。俺たちは運命共同体。仲間内で争ってる暇はない」
「はい、すいませんでした。俺たちが協力しないとですよね」
「……すみません」
最後に当日の打ち合わせをして三人は王宮に戻った。
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