第124話
大通りで合流したソランに宿まで連れて行ってもらうと、どうやら街一番の高級宿にチェックインしたらしい。
なぜ分かるのかというとその宿が宿通り(宿が多いから勝手に命名)にあるほとんどの宿の数倍大きい上、豪華だからだ。
「…………まぁいいか。他の奴らが帰ってくるまで部屋で休むか」
部屋割はソフィア、フィー、ピクリナ、シースナの四人部屋、アキトとイーナの二人部屋、ジョーカーとソランの二人部屋、俺とヴァイオレットの二人部屋だ。
「っておい!」
「どうしました?」
「イーナとアキトはともかく、どうして俺とヴァイオレットが同室なんだ⁉」
「ジョーカーが部屋割を決めてこれで良いと」
あのクソピエロ!
「そうだ!ジェイの部屋があるだろ。俺はそっちに」
「どこかに泊まるだろうと取ってません。ちなみにもう満室です」
なんであいつこんなに勘がいいの!
ダンジョンバトルのときにも活かしとけよ。そしたら俺ももっと追い詰められたのかもしれないのに。
「あら、あたしは気にしないわよ」
俺が気になるんだよ!気になって夜眠れないだろ!
しかし俺の意見は流され、ヴァイオレットと同室にされてしまうのだった。
俺君たちの盟主だよね?
仕方なく部屋に行ってみたが、流石高級宿だ。部屋がすごく大きい。
風呂付きトイレ付きキッチン付き。住めるじゃん。
ベッドのふとんは…………うーん、普通。まあこの世界ならこんなもんか。
「エスリメの布団に慣れてるから物足りないわね」
俺と同じようにベッドにダイブしたヴァイオレットが感想を言う。
「エスリメねー、なんとも安直な」
「気に入らないの?きれいな名前じゃない」
スラヌメ王国とかスラダン王国よりましか。
俺のネーミングセンスを考えれば満点ってとこだな。
「ねー、ヴァイオレット?」
「何?」
「なんでベッドが一つしかないの?」
俺とヴァイオレットは同じベッドにダイブして真隣で話をしていた。
これ家族用じゃん。
「あ、あたしは気にしないわよ」
うっそだー、顔真っ赤だよ。
『主よ、この女きっと主に気があるに違いありませんぞ』
『分からんよー。親愛かもしれない』
最近俺は食い過ぎだってヴァイオレットをからかったりしたぜ。嫌だろ女子的には。
そのくらいなら分かる。
え?そこまで分かっていてなんでするのか?面白いからに決まってるだろ。
『ふむ、人間の恋愛というものは分かりませんな』
『はっ、剣に理解されても嬉しくないね』
横になってくつろいでしばらくすると、ソランが全員戻ってきたと報告に来た。
「全員、俺の部屋に集合と言ってきてくれ」
「はい」
「俺たち、でしょう?」
ソランが出て行ったあと、耳元でヴァイオレットが囁いてきた。
それ心臓がキュッとなるからやめろ!
ジェイ以外のダンジョンマスターが揃い、皆俺が話し始めるのを待つ。
「よし、知ってる奴もいるだろうが俺たちの国、エスリメの建国式があるらしい。俺たちも式を見物しようと思うが、異論はあるか?」
もちろん誰も反対しない。そりゃ一度だけの建国式だ。見に行かないと損だろう。
「後はジェイが帰ってきたら温かい目で見てやれ」
俺の冗談にジョーカーはクククと笑って会議は終わった。
■□■
隣でヴァイオレットが寝ていて気になって眠れないかと思ってたが、なんだかんだで疲れてたんだろうすぐ眠れた。
目を覚ますとバッチリ目の開いたヴァイオレットが俺の上に覆いかぶさって息がかかる程近くまで顔を近付けていた。
「あっ」
うーん、ここで言葉を間違えると死ぬな。
「おはようヴァイオレット!いい朝だな!」
にこりと笑って挨拶をするが、ヴァイオレットの顔は今まで見たことないくらい赤くなる。
「な、なん」
「ナン?」
朝飯か。カレーも用意しよう。
「なんで今起きるのよー!」
バシーン!とダンジョンマスターの平手打ちを打たれたことによって俺は部屋の壁まで吹き飛ばされた。
衝撃を受け流したが痛い。
反射が間に合わなかったら首が二、三回転してたんじゃないか?
それにしても今回に関しては俺に非は無いはずだ。今なんで起きるのよ?どうしてそんな理不尽な事で怒られた上に命の危険に晒されなければならないのだ?
いろいろ納得いかない俺はとりあえずこの状況になった根本の元凶の名を叫んだ。
「ジョォーカァー!」
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