第123話
「その話、自分も一枚噛ませてくださいよ」
話がまとまってきたところで扉が開いて、一人のドワーフの青年が入ってきた。
「シゼール坊、久しぶり。大きくなったねえ」
「ジェイ兄さんは変わってませんね」
弟弟子だから兄さんか。
見た目の歳ならアースラ、シゼール、ジェイの順なんだから不思議な感じだ
「自分とアースラ兄さんの工房で声をかけたらほとんどのドワーフの耳に入るはずです」
「そりゃいいや。シゼールさん。頼めますか?」
「兄弟子の主の頼みなら聞かないわけにはいきませんね。ですが、一つお願いがあります。エスリメ国での出店の許可をください」
エスリメ?俺の国の名前ってエスリメって言うのか。
slimeのSをそのまま読んで後はローマ字読みしてエスリメか。安直だな。
「良いだろう。一筆書こうじゃないか」
紙に彼とジェイとの関係と出店の許可を与えて欲しいと孔明宛に日本語で書いて渡した。
「これを孔明ってやつに渡せば何とかなるだろう」
「はは。ここまで話が早いとは、ありがとうございます」
シゼールはにこにこ笑いながら手紙を懐にしまい、彼にアースラが刀を手渡す。
「これがアースラ兄さんが作りたがってた刀ですか。これもなかなか興味深い剣ですが、自分はユースケ様の腰にある剣の方が気になりますねぇ」
先程からシゼールはずっと妖精の剣に熱い視線を注いでた。
どうやらシゼールは妖精の剣を見た事があるようだ。
てことはあの崖を登ったのか。大して強そうでもないシゼールなのに…………マジで長命種怖い。
「ユースケ様、シゼールはSランク程度の実力はありますよ」
「…………そうか。なら納得だ」
メッセージの魔法を使ってシゼールだけに聞こえる言葉を飛ばす。
『訳あって抜けた。こんな強力な武器が転がってると不安で眠れないのでな』
「そうだったんですか。自分も握るところまではいけたのですが、固くて固くて。とてもだめでした。よろしければ一度握らせてもらえませんか?」
そのくらいならとベルトから鞘ごと妖精の剣を外してシゼールに渡した。
「……ん?おやおや、はははそうですか」
剣の柄を握って変にニヤニヤしながら独り言を言うシゼールを俺含め皆が奇妙な物を見るような目で見た。
妖精の剣はサイレントの魔法をかけた鞘に入れてるから話せないはずだが……。
『どうしたんだ?シゼールさんにもメッセージをかけたから教えてほしい』
『自分にあなたを切れと言ってきましたよ。その後試練の山に戻してほしいと。どうやらサイレントをかけられていても柄を握ってる者には話しかける事ができるみたいですね』
この野郎。剣のくせに生意気にも俺に対して反抗しようと虎視眈々と機会を伺っていたな。
俺も何度か柄を握ってるのに、話しかけてこないから完全に話せないものとばかり思ってた。
だが、味方に選んだシゼールから秒で裏切られたのが運の尽きだな。
今はガタガタ震えている。
…………剣なのに無駄に感情表現豊かだな。
『スーパーホーリースミススライム、早く作らないとなぁ』
シゼールから剣を返してもらい、柄を握るとやかましの剣は全力で謝罪してきた。
『申し訳ない!出来心だったのだ。もう二度としないからやかましの剣だけはどうか!』
『じゃあ俺を主と認めろ』
『ぐ、それは…………そういえば、貴様国王とか言ってなかったか?』
『貴様?』
『貴方様は国王であられますか?』
『建国式はまだだが一応な』
強者にとことん弱いやかましの剣はしばらく黙る。
なにか考え込んでるようだ。
『ダンジョンマスターではなく…………民を率いる国王としての貴方ならば主と認めよう』
諦めたように妖精の剣はそう言った。
自分の中での妥協点を見つけたみたいだ。
それとも何か主を決めるための制約でもあったのだろうか?それとも自分のプライドか?
「ユースケ、さっきから口パクパクさせて何してるの?」
「……何でもない。アースラさん、刀はプレゼントするからさっきの話よろしく」
「何⁉それは本当か!」
「ほんとほんと。そんじゃまた」
積もる話もあるだろうからジェイを残して俺とヴァイオレットは職人通りに出た。
「ジェイとイティさん付き合うのかしら?」
「さあな。それは本人たち次第だろ………………ヴァイオレット、俺たちは大通りまで出られるのか?」
「もう!カッコつけるからこうなるのよ!」
その後俺たちは数時間通りをさまよった挙げ句、親切なドワーフに助けてもらってようやくソランたちと合流できましたとさ。
この年で迷子か。あー恥ずかしい。
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