第122話
まず始めに連れて行かれたのはアースラと言うジェイの同期の鍛冶士の工房だ。
ごちゃごちゃした路地を抜けた先は工房ばかりの通りで何処からともなく金槌の音が聞こえる。
「職人街ってところか」
「アースラの工房はこちらからです」
イティが向かった工房は通りの中で一番大きかった。
「へぇ、あいつがこんな大きな工房を持つなんて。偉くなったもんだなあ」
中は入るとすぐに店があって奥に鍛冶の音が聞こえる。
店の売り子がイティに気づいて声をかけた。
「イティの姐さんじゃないですか。今日は何用で?」
「アースラに伝言してくれるかしら?ジェイが会いに来たって」
「ジェイ?…………分かりました」
売り子はキョトンとした顔をしたが、奥に入っていった。
少しすると野太い叫び声となにか倒れた音がして奥からオヤジが一人転げ出てきた。
「ジェイ⁉やっと戻ってきたか!って若っ!一体何をしたんだ?」
「久しぶりアースラ…………老けたね」
アースラは俺の思ってるドワーフの姿そのものだった。
顔はひげで覆われてずんぐりした体型。
この世界に来て初めて見たドワーフっぽいドワーフだ。
珍しい。
ここでは何だということで、工房の奥にあるアースラの家に俺たちは通された。
ジェイが今まで何をしていたのかとここに何をしに来たのかを言うと、アースラはしばらく目をつぶって深呼吸をした。
「ダンジョンマスターになっただとお?はあ……いつも儂の想像の斜め上を行くよなお前は」
「何を想像してたの?」
「Lランクのモンスターのそざいを求めて魔界にでも落っこちたのかと思ってた」
アースラの想像もだいぶぶっ飛んでるな。てかそんな想像されるジェイが変わり者なのか?
「それで?ユースケだったか?儂になんのようだ?」
「すいません。こいつ礼節がなってなくて」
「いいや、俺もこのくらいの方が気が楽でいい。アースラさん。まずはこいつを見てくれ」
俺が出したのは腰につけてる妖精の剣、ではなくアダマンタイトで作った刀。
アースラは俺が想像してるよりも遥かに驚いて刀を凝視する。
「こいつは⁉少し試し斬りをさせてもらってもいいか」
「いいぞ」
アースラはその辺にあった木材を拾い上げてそれに向かって刀を振るった。
もちろんあっさり切れる。
次は石材に向かって振り下ろすと、石材はまるで豆腐のように滑らかに切れた。
「おい、これは刀か?」
「ああ、ついでに言うとアダマンタイト製だ」
アースラは刀を鞘にしまうと、椅子にどかっと座り涙を流した。
「頼む、これを作ったやつに会わせてくれ!」
アースラによると昔、とある冒険者が刀を作ってくれと言いに来たらしい。
その冒険者は恐らく脱走勇者だろう。もしこの世界に転生者が居るとしたらそっちの線もあるが、今まで転生者の噂は聞いたことがないから薄い。
アースラも面白半分でその冒険者に付き合って刀を作ろうとしたのだが、冒険者の説明が足りなかったのもあって満足する物は作れなかったそうだ。
刀の作り方を完璧に覚えてる奴なんてそんなにいないだろうから無理も無い。
しかし刀を作れなかったことがアースラのプライドを傷つけられ、様々な人脈を駆使して刀の情報を集めたが刀の特徴の情報ばかり集まって想いを募らせるばかり。
その想いを振り切るため仕事に打ち込んで数百年、遂に恋焦がれた刀を持ち振るうことができた。ならば次の欲が出る。刀を自らの手で作りたいという欲が。そして俺に頼み込んだ。
ただ作ったのはスミススライムなので普通の作り方じゃない。
待てよ、そういえばヒューマンスライムと職人スライムのいいとこ取りを計画してヒューマンスライムに職人系スライムに進化する為のものを食わせる実験してたぞ。
結果は成功したが飽きてその後放置してたが多分街に居るだろう。
そいつから教われば良い。
「構わない。しかし条件がある」
「何でもやろう!」
「よし、この刀を他の職人たちにも宣伝してくれ。新しくできるダンジョンマスターの国に行けば作り方を教えてもらえると」
「そんなことでいいのか?」
「そんなことって言うけどな、職人を呼ぶってのは結構大変なんだぞ。そっちから来てくれたらどんなに楽か」
色んな種族が住む国を目指してる身としてあまり住処を変えようとしない妖精族はぜひとも来てもらいたいから多少の技術流出の可能性は気にしない。
仮に流出しても数も質もこっちが上だからな。
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