第119話
一つ聞くがお喋りなやつってのは面白い話をしないと大体煙たがれるものではないだろうか?
面白い話をすれば話の中心になれるが、面白く無かったら敬遠され、下手するといじめに発展するだろう。
まあ俺が何を言いたいかと言うと…………。
『我輩を封印に戻せー!』
「やっかましい!少し黙ってくれ!」
キイィィィン!
「こいつ!」
この剣!試練の山から丸一日騒ぎっぱなしなのだ。
ウザイから無視してたら挙げ句の果には刀身を震わせてキイィィィン!と嫌な高音を立ててきやがった。
ヴァイオレットなんか鬼の形相で折ろうとしてたぞ。
「よっし、できあがり」
『む、それは鞘か。ふむ、高貴な我輩にふさわし…………』
全て言い切る前に妖精の剣を鞘に収めると一日ぶりの静寂が辺りを包んだ。
しばらく目を瞑り、深呼吸して静寂を堪能する。
「ユースケ様?これは……」
「この鞘にはサイレントの魔法を付与してあるんだ。てことだ。騒ぎたいなら好きなだけ騒げ。俺たちは熟睡させてもらう」
刀身を震わせてガタガタ鳴らすが、それだけだ。
今までの耳にこびりつくような高音に比べればどうということはない。
「流石です。ユースケ様」
「かーかっか。もっと褒めいもっと褒めい」
マスターたちが俺を褒める中、諦めずに妖精の剣はガタガタと震える。
「おい、それ以上音を立ててみろ。刀身にやかましの剣って刻むぞ。スミススライムをスーパーホーリースミススライムに進化させれば可能だからな!」
少し力を込めて言うとピタリと剣は動かなくなった。
人間だったら背中にやかましい人間て、入れ墨彫られてるようなもんだからな。流石に黙るだろ。
え?本当に妖精の剣を加工できるのかって?
剣に言ってやったようにスーパーホーリースミススライムを作ったら何とかなるだろ。
今のうちに作っておくよう孔明に伝令を送ろう。
「静かにしてたら今度は普通の鞘に入れてやるよ」
「剣を脅すなんて悪い人ね」
「おいおい。俺たちはダンジョンマスターだぜ?悪いことして誰が咎めるんだ?」
俺がおどけて言うと、ヴァイオレット以外の皆も声を上げて笑った。
「ははは。さーて、冗談はここまでにしよう。俺たちは街づくりの為に様々な種族の国や街を見て回ってるが、ここで一つ目的を増やそう。ジョーカー、分かるな?」
「妖精の剣のような強力な武器、防具、魔道具の調査、回収又は奪取ですねボス」
あーそうか。防具や魔道具もあるよな。完全に見落としてた。
「そうだ。俺が思ってたことを全て言ってくれたな。ヴァイオレット、このことを孔明に言いに言ってくれ。俺には言うなよ」
「どうして?」
「下手に首を突っ込まれて危険な真似をされるとここに居る俺と合わせてリスクは2倍だ。俺が荒事あいつが安全に内政。それでいいだろう?」
せっかく体が2つあるのに同じことしてたら効率悪いじゃん。
近くのダンジョンの入り口まで行ってヴァイオレットを見送る。
女性マスターたちから美容品やスイーツの追加を頼まれていたが、出発のとき見た限りではまだまだストックはあるはずなんだけどなぁ。
「ボス、そこに踏み込むのは危険ですよ」
「…………なら黙っておこう。にしても妖精族の大陸は自然が多いな。港町以外は極力自然を傷付けないようにしている」
ウンディーネの里は湖の中に水草で作ったような家を建てていてぱっと見では人が住んでるようには見えなかった。
「例外はありますが妖精族は自然を大切にしますからね。エルフは森、シルフは谷、サラマンダーは温泉地帯。それぞれが心地良い環境に住んでるから住処を壊さないために自分で守ります。ボス、街に自然エリアを作ってはどうでしょう?」
「そうだな」
ジョーカーとそんな話をしてるが、孔明なら案外もう手を付け始めてるんじゃないかと思った、
それから数時間もするとヴァイオレットは帰ってきた。
「お帰り。言ってくれたか?」
「ええバッチリよ。それと報告があるわ。街じゃなくて国を作ることになってたわよ」
「国ぃ⁉」
「ヴァイオレット様、本当ですか!」
どうやら周辺国が街の規模を見て国と判断したらしい。
いずれ建国式もするそうだ。
「何やってんだ俺は……」
一人でぼやくと何故かヴァイオレットが俺を見て笑った。
「ふふっ」
「何だよ?」
「いいえ、赤ちゃんを抱っこしているあなたを想像したの」
「赤ちゃん?俺は独身だぜ?」
「いいのいいの。ふふっ、気にしないで」
その後もヴァイオレットは俺の顔をチラチラ見ては笑った。変なやつだなあ。
「ユースケ様、国を作るということは我々はもう宣伝するだけで良いのでは?」
「そうだな。もう指輪はいいか」
国はなんて名前になるのだろう?スライムプニプニ国、略してスラプニ?
みんなが盛り上がる中、ジョーカーだけはひとり静かに仮面を付けた顔を上に向けてた。
「国。国、ですか」
「いい事じゃねえか。俺とお前の望みが規模をでかくして叶うんだから。お前ら!内政組に負けない成果を持って帰るぞ!」
「はい!」
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