第118話

「そこで二つ目の方法はこれだ!」


 俺は鞄から革の手袋を取り出した。


「……なんの変哲も無いグローブに見えますが?」


「こいつはスーパーホーリーグローブスライム。昔、スライムの進化実験をしていたときに作り出したやつでな、聖属性の魔法のスクロールを全て食わせたホーリースライムに聖水をしこたま飲ませてスーパーホーリースライムにして、それにグローブを食わせたスライムだ。これを嵌めて」


 電撃が来ないか、恐る恐る剣の柄を握るが何も起きることなくあっさりとつかめた。


「な」


「素晴らしい発想です。流石はスライムのプロフェッショナル」


 ソランは褒めちぎってくれるが、グローブだけで握れるとは少々呆気なくて驚きだ。

 最悪、ゴーレムをダンジョンから配下召喚して代理で抜いてもらうとこまで考えてたんだが…………邪悪判定ガバガバだったな。

 力を込めると少しずつだが、剣が抜けてきた。


「おお!」


「よいしょっ!」


『やめろー!』


 俺を止める声が聞こえたが、そのときには既に妖精の剣を抜ききった後だった。


「ソラン、どうして止めようとしたんだ?」


「いえ、私は感嘆の声しかあげてませんが……では誰が?」


 俺とソランは周囲を見渡してみたが人っ子一人居ないし気配もしなかった。

 だが、俺もソランも確かに声を聞いた。空耳のはずが無い。

 二人で首を傾げる。


『くそっ、まさかダンジョンマスターなんかに抜かれるとは……不覚!』


 今度はどこから聞こえたのかははっきり分かったので声の主を見た。

 声の主はさっき俺が抜いたばかりの妖精の剣だったのだ。


「インテリジェンスウエポン?」


「意思を持った剣か!」


 そういえばこの世界に来て今まで見たことなかったな。

 ショップにも載ってなかったって事は、流石の先輩でも作ることができなかったのだろうか。


『おい!吾輩を元に戻せ!』


「嫌だね…………だが、そうだなぁ……お前の来歴を話したら考えないこともないぞ」


 剣のくせに生意気にも刀身を震わせて歯ぎしりのような音を立てる器用な真似をしながら、妖精の剣は渋々自分のことを語り始めた。


 妖精の剣は神からの祝福を受けた職人が十日十晩眠ることも無くひたすら鍛え続けた剣で、一振りすれば100のモンスターを切り、二振りすれば1000のモンスターを切り、三振りすればLランクのモンスターを切るとまで言われていた剣らしい。


 時の使い手は妖精の剣で巨悪を倒した後、いつの日かまたこの剣が必要になる時までこの山に封印したそうだ。

 要するにこの剣は、RPGで言うと裏ボスを倒した後に手に入るレベルのチート武器ってことだ。


『と言う訳だ。さあ、我輩を刺し直せ』


「できるかぁ!」


 話を聞く限り人間にとっては何とも頼もしい性能の剣だが、自分がそれを向けられる側に入ってるんだぞ!

 勇者や恐ろしい聖女に取られる前にこちらで回収できて良かった。


『何と⁉』


「何と⁉じゃねえよ!こんな危険物、外に置いてられるか!俺が使う」


『約束が違うではないか!』


「俺は考えると言った。考えはしたから約束は守ってるさ」


『我輩の抜き方と言い卑怯な男だ!』


 卑怯で結構。こちとら外聞が大切な正義の味方じゃない。悪役のダンジョンマスターなんだからいくらでも卑怯なまねなんていくらでもやってやる。

 この剣は、対魔王の爺さん用に取っておこう。


 さて、妖精の剣が無くなると次来たやつにバレて騒ぎになるので代わりに刀身を強力接着剤でベチャベチャにしたアダマンタイトソードをしっかり奥深くに突き刺しておいた。


 接着剤が乾くのを待って引っ張ってみたがびくともしない。

 抜く条件が聖なる者からめちゃくちゃ力のある者に変わったな。


 仮に抜かれたとしてもアダマンタイトソードだからな。性能は申し分ないからバレないだろう。

 たとえ接着剤コーティングされたアダマンタイトソードだとしても。


「よし、帰るか」


「そうですね」


『やめてくれー!』








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