第117話
Side旅雄亮
「試練の山、ですか?」
海賊をダンジョンに送った俺は妖精族の大陸を旅していた。そして、旅の途中に立ち寄ったウンディーネの里で、長老からなんともありきたりな名前の山について聞かされ、そのことについて仲間たちに話していた。
「あー、あれですか」
「知ってるのか?」
妖精族の五人は試練の山について知っていた。
妖精族にとっては割と知られていて、山頂に妖精の剣と言う銘の剣が突き刺さっていて、妖精の剣は聖なる者のみが抜くことができると言われているそうだ。
「と言っても、今まで抜くことのできた妖精族は居ないんですけどね」
「へー聖なる者のみか…………聖女は?」
「ははは、妖精族も流石に危険人物に情報を渡しませんよ。そもそも、噂ではあの武器は相当な力を秘めてますから、その力が妖精族に向けられる可能性を恐れて情報は秘匿され、他種族では知ってる者はほとんど居ません」
もしも妖精の剣が、一振りで山をも砕く性能があったとしたら……クレイジー聖女の手に渡るのは想像するだけで恐ろしい。
「聖なる者なら抜ける……」
「我々は絶対に無理でしょうね」
モンスターを召喚して人間に敵対するダンジョンマスターは、邪悪の代名詞の様なもんだからな。
逆立ちしても抜けるわけ無いか。
「聖なる…………そうだ!皆、登山に行くぞ」
「……はい?」
三日後、俺たちは試練の山に着いた。
しかし山と呼ばれてるのに傾斜が無い。
地面にほとんど直角で巨大な崖と言ったほうが正しいな。
試練の崖だ。
「流石に予想外ね」
「足よりも手の方に負担がかかりそうです」
「どうしますボス?」
全員登るのは嫌そうな顔をしてるが、俺が命令したら登るだろう。
けど俺は登りたくないから却下。
「飛べばいいだろう」
「あ」
普通に登ったら何日もかかりそうな高さだし、何より面倒。
普通の山でも飛ぶつもりだったけど、流石にここまで断崖絶壁だとは思ってなかった。
剣を抜けるかの前にここを登れるかでほとんどの挑戦者は脱落するな。
「ユースケ様、ここは魔力が使えない地域だからフィーたちは飛べないよ?」
「あたしも飛ぶのに少し魔力を使うから駄目ね」
「あれ?そうなのか。確かに飛ぶのオッケーなら飛行魔法の使えるやつ有利だもんな」
フィーたちはリタイア。残ったソランに全員の視線が集まる。
「この高さは一人が限界です」
全員運び終えるまで往復させられては堪らないとソランは一言断る。
だが、一人運べれば十分だ。
「よし、俺とソランで上に行くからお前らはここで待ってろ」
「分かったわ」
「ボスがどうやって妖精の剣を抜くのかを見てみたかったのですが、仕方ありません。ソラン、録画は頼みましたよ」
「分かった」
羽交い締めするようにソランは両手を俺の脇の下に通して抱えて飛び立った。
自分でコントロールできない浮遊感に少し不安になる。
声でも出して気を紛らわせるか。
「あー!」
「どうしました?」
「いや、き、気にするな」
ソランに心配された。
絶対に無いが、ソランがもし手を離したらと想像すると体がガタガタ震える。
…………下を見るから駄目なんだ。前を見よう。
見渡すと、どこまでも続く大自然。動いてる点のようなものは動物だろうかモンスターだろうか。
日本の街で暮らしてた俺にとってこの光景は新鮮だった。
「すげぇ。翼があればこんな光景を見ることができるのか」
「だから翼の無い種族は空に憧れるのでしょうね」
しばらく景色を堪能した後、俺たちは山頂にたどり着き片刃の剣の前に立った。
刀身が一メートル前後だとしたら三分の二くらいが突き刺さってることになる。
この場合、ギャグ漫画だったら刀身十メートルとかあるんだろうが常識的に考えてそんな剣を作るバカはいないだろう。
「ではユースケ様、どうやって抜くんですか?」
ソランがビデオカメラで録画しながら俺に聞いてきた。
何かDQNが観光地を荒らしてる感があって嫌だな。
「方法は二つ、一つ目は周りを掘り返す」
鞄からシャベルを出して周りを掘ろうとすると、バチッと電気のようなものが走って俺を弾き飛ばした。
「くっ、痛てててて」
「地面に結界がはられてますね。これが周囲の魔力を吸い取ってるから魔法が使えないんでしょう…………間違えました。魔力を吸ってるのは剣そのものです。つまりこの結界を張ってるのも剣自身のようですね」
まあこんな事で手に入るんならもう誰かが試してるわな。
期待はしてなかった。
「二つ目の方法は何ですか?」
「その前にソラン、剣を抜けるか試してみ?」
ソランはカメラを俺に預け、妖精の剣を抜こうと剣の柄を掴もうとすると、さっきの俺と同じように吹き飛ばされた。
俺より勢いが強くて崖から放り出された。
翼が無かったら死んでたぞ。
「くっ、邪悪な者は手を付けることすら許されないとは……」
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