第116話

 さて、話は戻り冒険者ギルドのモニターが切り替わって一人の男を映した。

 突然のことで依頼の受注中にもかかわらず、モニターを凝視する冒険者たち。何事かと他の冒険者たちも集まりモニターに注目する。


「御機嫌よう、エスリメの冒険者諸君。俺はエスリメ国王であり、スライムダンジョン、ダンジョンマスターの雄亮だ。本日は諸君に俺からの挑戦を聞いてもらうためにギルドのモニターを借りさせてもらっている」


 雄亮から事前に話を聞いていたリードやギルド職員はモニターが変わったことに驚きはしなかったが、話の内容は教えてもらってなかった為冒険者たちと同じくモニターを凝視する。


「さて、まずは今日までダンジョンを攻略してきた諸君に言おう。おめでとう!君たちは俺の想像以上の速さでダンジョンを攻略している」


 ぱちぱちと拍手しながら賛辞の言葉を送る雄亮を見て、冒険者たちは得意げな顔になった。


「そこで俺からのご褒美だ。二つ俺のダンジョンの情報を君たちに開示しよう。これが俺のダンジョンの全体図だ。青い部分は君たちが攻略した場所、赤い部分が残りだ」


 雄亮が表示した立体映像を見て、冒険者たちはあんぐりと口を開けた。

 なぜならば、自分たちが攻略していたのは全体の十分の一もない端っこだったからだ。


 経験上深くなればなるほどダンジョンのモンスターは強くなっていく。

 冒険者たちは自分たちの寿命までに果たしてこのダンジョンは攻略できるのだろうかと絶望感に包まれた。


「そしてもう一つ!ダンジョンのとある場所には俺の宝物庫がある」


 雄亮が立ち上がって転移した先を映すと先程まで絶望感に包まれていた冒険者たちの顔が明るくなった。


 物語にしか出てこないような量の金銀財宝、所々にある超大業物の装備、それらが冒険者たちの冒険者魂をくすぐる。


「ここまで来て俺の用意した番人を倒せばここにあるすべてをくれてやろう。これは俺からの挑戦だ。期待している」


 そしてモニターは何事もなかったかのように元に戻った。


「……………………」


「……う、うおおぉ!俺は行くぞ!」


 しばらくの沈黙の後、一人の冒険者が雄叫びを上げた。

 そして連鎖的に冒険者たちが気合の雄叫びを上げたり、何かを決心したように頷く。


「なあ、あんたソロのSSランク冒険者の孤高だろ?俺たちとパーティーを組まないか?」


 既にギルドの一角ではパーティーの戦力増強の為に動く者たちがいた。


「……なぜだ?」


「あんなの見せられてじっとしてられるかよ。なんとしてもたどり着きたい。お前はどうなんだ?」


「…………お前たち、ランクは?」


「SSSランクパーティー、紫電」


「…………ふっ、いいだろう。たまにはパーティーを組むのも悪くない」


 強者は強者と組みさらなく高みへ、弱者は自分たちもそんな強者に成れるように今まで以上に鍛錬の為にダンジョンへと入っていくのだった。




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「宝物庫で冒険者を釣るなんて考えましたね」


「そ、そうだろー。快適な生活があるくらいで辞めるようなら冒険者なんてやってないと思ったんだ」


 いやー、上手いこといってよかったー。

 セクメナに感謝だ。

 もしなんの効果も無かったら目の前で笑ってる孔明は……考えるだけでも恐ろしい。


 俺の挑戦を受けた冒険者たちは、新たにパーティーを組んだり、引退した冒険者やエスリメに住んでいない冒険者を引っ張ってきて、現在ダンジョンを攻略している人数は数日もしたら倍になると予測できる。


「ええ、一石二鳥です」


「ニ?」


「他のダンジョンマスターの主な収入は冒険者たちからのDPでしょう。今世界の三割以上の冒険者がエスリメに居ます。これからもエスリメに来る冒険者増えるでしょう。したがって、その分の収入を他のダンジョンマスターから奪ってるという事になります。我々は儲かる、敵は収入が減る。今回の事で雄亮さんは他のダンジョンへ間接的に攻撃してるんです。」


 ほう。そんな事になってたとは……せいぜい冒険者たちのモチベーションの向上になるかとしか思ってなかった。


 入国した冒険者のランクを調べると、宝物庫発表後はBランク以上の冒険者の割合が高い。

 確かにこんな高ランク冒険者ばかりこっちに来たら他のダンジョンの収入はだだ下がりだろうな。


「そういえば宝物庫はどこにあるんですか?」


「ドラドラが気に入ったみたいだからあいつの担当フロアの隣に置いた」


「ブラックドラゴンは宝を持ってるほど強くなりますからね」


 へぇ、だから光り物への執着が強いのか。

 それならもっと宝を用意すればいいんじゃないかと思うが、そううまくはいかないらしく、敵が宝に触れると理性が無くなるらしい。


 宝の場所が分かっていると多ければ多いほどそのリスクは高まる。

 ドラゴンが強い理由は、高い知能で強力な魔法を高所から放ってくるところにある。


 本能だけで戦うドラゴンはただのでかいトカゲだ。

 それでも危険なんだけど、宝物庫まで来れる実力の持ち主ならばどうとでもできる。


「さて、移住者も増えてきたことですし、居住区の増築をお願いします」


「真ですか……」


 いつになったらまとまった休みが取れるのだろう……。










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