第105話

「海賊?」


「えぇ、近くの海域で大規模な海賊団がいるらしいです」


 先程すれ違った船と情報交換をしていた船長がそう言ってきた。

 バカでかいリヴァイアサンがいる世界で海賊をするなんて度胸があるなあ。


 この前実物を見てなかったら何とも思わなかったけど、見たからには海にいる限りあのリヴァイアサンの驚異はひしひしと感じる。


 体を見るだけで圧倒されたんだ。少なくとも俺は海賊なんてやりたくない。


 話を聞くとやはりと言うべきか、度胸だけではなく腕も一流で、リヴァイアサンと遭遇しても逃げ切る程度の実力がある者たちらしい。


 というか、それくらいの実力が無ければすぐ死んでしまうそうだ。

 海の驚異はリヴァイアサンだけじゃないからな。


 そんなに強いなら普通に兵士をしとけよと言いたいが、どこの世界にもはみ出しものはいるということか。


 しかし、もし襲われたとしてもこちらには強いダンジョンマスターたちがいるし、最悪配下召喚してマスターソードに頼ればいい。

 これほど心強い護衛たちはいないだろう。

 来るなら来い、だ。


 そう思っていたが、来る日も来る日も海賊は現れなかった。

 どの方角を見ても船影は無く、のどかな船旅。

 後方でゲロゲロ聞こえるが気にしない。


「海賊だ!」


「待ってました!」


 船員の報告に変な返答をしてしまい困惑された。

 海賊は前方から数十隻の様々なサイズの船、何らかの魔道具を使ってるのか速度が早い。


「全員集合!」


 俺の号令でマスターたちが瞬間移動したかのように一瞬で周りに集まる。


「よーし、全員に課題だ。俺たちを襲った愚か者たちを生け捕ってこい」


「皆殺しじゃないんですか?」


「生け捕りの方がギルドの評価が皆殺しより高いんだ。あとジェイは見た目子供なんだからあまり恐ろしい言葉使うな」


「なるほど、では私が先陣を切りましょう」


 そう言って、堕天使であるソランは初めて見せる漆黒の翼を広げて海賊船の方へ飛び立った。

 あれが堕天使の翼…………か、カッコイイ。しかも飛び立った時に何枚かひらひらと羽を落としていくところが芸術点が高い。


 ソラン……彼はデキるイケメンだ。


「あ、ずるい!飛べる子たちはあたしに続きなさい!」


「はい!」


 ソランに先を越された翼ある組のヴァイオレットに続いて、魔法を使ってイーナ、エルフ三人娘が飛んでいった。

 元気だなあ。


「良ーなー空飛べて」


「今度フライのスクロール使っとくかー」


「そうだな……よし、あの六人ならこっちが接敵するまでに終わってるだろう」


「ボス、完全にオーバーキルですよ……」


 しかし、六人が飛べない組に気を利かせたのか一隻だけ蹂躙を逃れてこちらへ来た。


「ほら来たぞ。行ってこい」


「彼らのおこぼれってのが釈然としませんね」


「うだうだ言ってないでさっさと行け」


「了解!」


 いくら海賊が強いと言ってもこちらはあらゆる場所、時代の中からダンジョンコアに認められたこの世界の猛者たちだ。

 危なげなく全員を簀巻きにした。


「くそっ、離しやがれ!」


 ジョーカーたちが制圧し終わったくらいでソランが一人の海賊を引っ捕らえてきた。

 ソランが引っ捕えてきたのは身長2メートルもある大男だった。

 どうやらこの大男が首領らしい。


「お前が海賊団の団長か」


「そう言うてめぇはこの化け物共の頭だな!こんなガキに負けるなんて俺も焼きが回ってらぁ!」


「俺はともかくこいつらは世界でも指折りの強者だからな。運がなかったと思って諦めろ」


 俺の勝ち誇った顔を見て、ギリギリと歯ぎしりしながら視線で殺してやるとばかりに睨めつけてきた。


「そんじゃ、アジトまで案内してもらおうか?」


「フンッ、誰が親切に案内してやるものか。拷問されても俺は死んでも口を割らんぞ!」


「あっそ。ちなみにお前の仲間は全員捕まえてあるけど、その中で拷問されても口を割らないくらいお前に忠誠を誓ってる奴は何人いる?」


「………………クソッ」


 俺がニヤッと笑うと、海賊の頭は血管がはち切れそうなくらい顔を真っ赤にさせて悪態をついた。






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