第101話
私はオットー、クロノ帝国のスライムダンジョン特別大使だ。
大図書館で失神した人だ。
私や、各国の大使はダンジョンマスターであるユースケ殿の厚意によって街に滞在することを許されており、各々気ままに街を見たりしているが、私は毎日ある場所へ行っていた。
「あれ?オットーさんじゃないですか。ひょっとして毎日図書館に来てるんですか?」
「ユースケ殿!…………あなたこそ一体何を?」
図書館には先客がいた。
ダンジョンマスターには大図書館があるのに……どうしてわざわざ規模の小さなこちらにいるんだ?
「俺ですか?俺はこの子達に絵本の読み聞かせをしようと思いまして」
よく見ると後ろに子どもたちがいた。
そういえば数十人の住民がいるのだった。彼らの子供だろう。
絵本の読み聞かせ。ユースケ殿が連れている子供たちは五、六歳に見える。
貧しい村ならこの年から畑仕事とかを手伝うが、この豊かな街ならばそのこと自体は不自然じゃない。
文字を覚えるきっかけにもなるしむしろ推奨されることだと思う。
しかし。
「王自らが平民に読み聞かせですか……」
「ははは、やることがないですから。それに民の生活を知らない王の寿命は短いと歴史が教えてくれますしね」
確かに……いや、それは民の貧しい生活を知らずに、王や貴族が贅沢をして圧迫するからであって、ここは前提の貧しいを満たしてないから問題ないと思うが……そうか!逆に民が怠けてないか自然に視察しているのだな。
ならば納得だ。
「オットーさんは政治学ですか?孔明の世界とこちらの世界では常識から違うので分かりづらいでしょう」
「まあ、しかし理解できる部分はあるので参考になります」
実際にコーメイはこれらの知識を活用して賢人と呼ばれたのだ。
覚えておいて損はない。
「熱心ですね。そうだ!これを差し上げます」
ユースケ殿が差し出してきたのは数冊の本だった。
「これは……」
「社会科の教科書、孔明たちの国の子供たちが社会の歴史、成り立ちを学ぶための本ですね」
めくると、なるほど宗教やら国やら様々なことが書かれている。
「教科書に書かれていることで更に専門的なことを知りたかったら司書のヒューマンスライムに言ってください」
「素晴らしい贈り物。ありがたく頂きます」
ふむ、しかし相変わらず見たことの無い製本技術だ。この本はどうやって作ってるのだろう?
私が教科書を熟読してると、ユースケ殿が子供たちに読み聞かせしている声が聞こえた。
ふむ、モモタローと言う少年がオーガー退治に行く話か。
……何?もしかしてあの絵本はモンスターを動物に例えてテイムの方法を教えているのではないのか?
基本、テイムするには人間からではなくモンスターから何かしらのアプローチがあるのだ。
食料を欲しがるモンスターに食料を与え、恩を売って使役する。それが普通のテイマーだ。
スライム程度ならばその必要はないが、強いモンスターだとこの手順は必須だ。
この絵本はそれを分かりやすく子供たちに説明している。
「ユースケ殿!絵本はどこにあるのですか?」
「え、えーっと……あっちの棚です」
なんだこれは!ほとんど教訓のある話ではないか!
私の知ってる童話は勇者が悪を倒しました終わりといった単純な流れの物語がほとんどだ。
これを読めば文字の練習になるだけでは無く、基本的な道徳教育にもつながるぞ。
「オットーさん。どうしたんですか?」
「いえ……ただ、やはりここは素晴らしいところだと考えておりました」
「は、はあ。ありがとうございます?」
この国は武や富だけでなく、智もある。
私も負けていられないな。
ここでの知識を国に持ち帰り、教育の充実を陛下に提案しなければこれからは生き抜けないだろう。
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