第100話

「我々にとってもなかなか良い内容ですね」


「では」


「ですが」


 ニッコリと笑った顔を真顔に戻して孔明は俺に目配せをする。

 え、何?どうすれば良いの?ちょっと不満げな顔しとくか。


「まず、この貿易に関しては少々見直さなければなりませんね。我が国の技術の知識は出しても構いませんが、製品そのものの輸出はいただけません。輸出は少量、製法の指導はするので人材の派遣をしてください」


 俺が気にも留めていなかったことを孔明は挙げてその修正を次々としてゆく。

 技術か……アダマンタイトを加工できるのは、一部のドワーフの達人のみらしい。


 しかしそれは、俺のスミススライムを除けばだ。

 ダンジョンのスミススライムの出現度と、外にいるスミススライムの技量を下げておこう。

 オリハルコンスライム程度まで下げるか。


 ……考えてみれば、俺のスライムたちも技術の流出か。

 いっそのことテイムもやめるか。


「世界規模の監視網なのですからそれはやめないでください」


 なぜか孔明に心を読まれた。

 そういえばそんな目的もあったなー。


「我々の要求はこちらです。国へ持ち帰ってください」


「はい……確かにお預かりしました」


 持ち帰ってとは言ったけど、どの国の首都も日帰りできるんだよな。

 せっかく来てもらったのにすぐに返すのはどうなんだろうか。


「なあ孔明、大使の皆さんにしばらく滞在してもらおうぜ」


「どうしてでしょう?」


「実際に住んでもらってこの街の素晴らしさを感じてもらってから報告に行ってもらった方が、内容の詰まった報告になるだろ?」


「良い考えです」


 孔明は笑ってるが、驚きはない。多分俺が言わなかったら自分で発案してただろうな。

 俺がちゃんと思いつけるか試してたんだろう。


「大使館を作ってくる。孔明はもう少し話を詰めてくれ」


「御意」


 そういやショップに大使館ってあったな。

 縁先輩はどこまで想定してショップの商品を設定したのだろうか?

 俺は孔明の智よりも先輩の先見の明のほうが恐ろしかった。





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 コーメイという男は噂以上の賢士だった。

 彼が来てからユースケ殿の雰囲気が演じてるように見えなくなったことから、あの微妙に丁寧な態度はコーメイの指示だったと見える。

 思い返せば板で話していた相手もコーメイだろう。


 コーメイが来てから我々の国が一方的に取れる権利がゼロになってしまった。

 各国の賢人たちの師は伊達ではなかったようだ。


 まあこれらの権利は取れるようなら取ってこいといった風で、あまり重要度は高くないから良しとしよう。

 むしろ人材を育ててくれるらしいから感謝したいくらいだ。


 だが、少し気味の悪いところもある。

 技術指導は指導される側には利があるが、指導する国にはほとんど利はない。


 だから普通は多額の礼金を払ってやっと叶うのだが……一体コーメイの狙いは何なのだろうか。


「さて、こんなものでいいでしょう。それではまずこちらへ来てください」


 コーメイに連れられて行った場所には大人程の高さの金属製の箱があった。


「これは何ですか?」


「我が国の両替所のようなものです。右の口にお金を入れて、左の口に指輪をはめた手を入れると入れた金額相当のDPが振り込まれるしくみです」


 試しに銀貨を入れて手を突っ込んでみると、ピロリンと音がなった。


「これでDPが振り込まれました。残高表示と言ってください」


 コーメイの言う通りにすると、視界の端に数字が出てきた。


「この国の通貨は実際には手元にないということですか⁉」


「そうです。私がいた世界では仮想通貨と呼ばれていた物があります。ちゃんと価値があると証明されていればどんなものでも貨幣になるということですよ。DPはダンジョンマスターの力の源ですからその価値は十分保証されます」


「あのぅ、ですが私のDPが徐々に増えてます。これはどういう事ですかな?」


まだ両替していない魔法使いの護衛の一人がおずおずと手を上げて発言した。


「これはですね…………」


 なんと!ではこの国では働かなくても毎日コンビニ弁当が食べられるのか⁉


 私の頭の中にほんの一瞬移住の二文字が浮かんだが、頭を振ってそれを追い出した。


「これは街の至るところにあるので必要になったら利用してください。それでは次行きましょう」


 街に戻ると巨大な鉄の箱があり、我々はその中へ案内された。

 コーメイがなにか言うと、箱はひとりでに動き出し、ユースケ殿のいる場所まで走った。


「孔明、こんなもんでいいか?」


「ええ、この短い時間によくここまで立派なものが建てれましたね」


「ど、どんなもんよ」


 我々は国ごとに専用の大使館を与えられ、住居も用意された。

 至れり尽くせりとはこのことだ。

 この日から我々は国のことをしばし忘れ、快適な生活を貪るのだった。

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