第99話

「ここの主殿は、名君の器があるのでしょうな」


「あぁ、ありがとうございます」


「え?なぜあなたが礼を?」


「私がこのダンジョンの主、雄亮です」


 彼が名乗った瞬間その場が凍りついた。

 このようなヘラヘラしてなんの覇気もない少年がダンジョンマスターだということが信じられなかったからだ。


 だが、思い返してみればあの老人は少年に敬意を持っていたように見えたし、コーメイのことを尊称をつけずに呼んでいた。


「私のような若輩が彼らの主で驚いたでしょう。ですが事実です。私はスライムダンジョンのダンジョンマスター、雄亮です」


 淡々と自己紹介する少年を、ダンジョンマスターだとは信じられなかったが、わざわざ我々に嘘を言う必要もない。

 と言うことは真実なのだろう。


「は、ハッハッハ今まで正体を黙っておられたとは、なかなかお人が悪い」


「最初から正体を言ってしまえば私に注意が行ってしまって、街への驚きが半減したでしょう」


 むぅ……確かにそうだ。

 ここは街も主も心臓に悪い。


「あなたがここの主なのなら、これを。我らの主たちからの書状です」


 私は各国が連名で書いた書状をユースケ殿に渡した。


「……拝読します」


 彼は初めて見せる緊張した面持ちで書状を開いた。

 彼の表情を見ると先程までの飄々とした態度ではなく、こちらの方が素に近いのではないのかとわたしは思った。



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 一体どんなことが書かれてあるのかと緊張しながら読んでみるとその内容は案外拍子抜けする内容だった。

 堅い言葉がズラズラと並んでいるが、簡単に言うとこうだ。


 その一、俺のダンジョンを一つの国と認める。

 その二、この書状に名を連ねてる国は俺と敵対しない。

 その三、他国(主に神聖国)からのダンジョンへの攻撃があった場合はできる限りの手助けをする。逆に友好国が攻撃された場合は俺が兵を送るなり、物資支援するなりしないといけない。


 他にも細々としたことは書かれているが、要は仲良くしようね♡ってことだ。


「ふむふむ」


「いかがですかな?悪くない条件だと思いますが」


「あなたは私の臣下ですか?」


「い、いえ」


「ならばこれに関して口出しは無用でお願いします。これは私の臣下の孔明と相談することなので少々お待ちください」


「もちろんですとも。出過ぎた真似をして申し訳ない」


 言い過ぎたかなとも思ったが、ゼガンさんは感心したといった顔をしていたから大丈夫だろう。


 孔明に見てもらわないと、俺が見落としてる俺たちに不利益が生じる条項があるかもしれない。


 こういった仕事はそもそも俺の担当じゃない。

 分からないものは分からないので分かるやつにやってもらうのが一番だ。


 そう思ったとき、やっと孔明が来た。


「お待たせしました」


「ご苦労さま。早速だけどこれ読んで」


 俺は孔明に書状を渡して大使たちにコーヒーや茶を出す。

 俺がココアを飲んでると、女性騎士たちが物欲しそう見てきたので入れてあげた。


 そういやあ、デザートが無いんだからココアも無いか。

 ココアがあるんならチョコレートくらい作ってるよな。





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