第93話

 雄亮が孔明を連れてスライムダンジョンに戻った頃、時を同じくセラン王国でとある重大な会議が行われていた。

 その重要さは会議に参加している面々を見れば一目瞭然。


 参加しているのはセラン王国の王、ガタカ王国の王、ダルシメン連邦首長、ストリア連合長、クロノ帝国皇帝。

 そして、冒険者ギルドのグランドマスターとジェノルム。


 その他各国の重臣たちが円卓を囲んで座っていた。

 それぞれの国に共通することは雄亮のスライムダンジョンの周辺国家であるという事だ。


「さて、始めようか」


 参加した国々の中で最も国力のあるクロノ皇帝が重苦しい空気の中、口を開いた。

 ちなみに一人だけ身分の違いすぎるジェノルムは居心地が悪そうにしていた。


「うむ、グランドマスターよ。剣聖が件のダンジョンマスターの配下になったというのは本当か?」


「はい。詳しくはスライムダンジョンのダンジョンマスターと直接接触したジェノルムからお聞きください」


 グランドマスターに、ジェノルムはえ?俺が言わないといけないの?と視線を一瞬向けたが、目を合わせてもらえず無視され、ビクつきながら彼は説明を始めた。


「ダンジョンマスターの話では、剣聖の失った足を治す代わりに配下にしたと言っておりました。これをご覧ください」


 ジェノルムは一枚の写真を円卓の上においた。

 写真には肩を組んで歯を出して豪快に笑ってるマスターソードと、若干うざったそうにしている雄亮が写っていた。


「何だ⁉この精巧な絵は」


「まるで見たままのものを切り取ったようだ」


 写真の内容の前に写真そのものに驚く王たち、無論この世界に写真は存在しないのでこの反応は当然だ。


「これは写真と言ってダンジョンマスターの使う魔道具によって描かれた絵です。この写真に写ってるのがダンジョンマスターと剣聖です」


 ジェノルムに言われ、写真を覗き込んだセラン王が声をあげた。


「ぬ?店主ではないか。……そうか、彼がダンジョンマスターだったのか……」


「知っておるのか?セラン王よ」


「以前バカ娘がスライムダンジョンの無断攻略に行った時に娘を倒した男だ。まさかダンジョンマスターだったとは……」


 セラン王は自室に飾ってあるアダマンタイト製の鎧を思い出してため息をついた。


「ならばこちらが剣聖か?なんか若返ってはいないか?たしか今年で七十いくつと記憶してるが」


「ダンジョンマスターが言っていたのですが、スライムに自ら捕食される事でスライムの性質を手に入れ、若い頃の肉体に変化したそうです」


「なんと無茶なことを……」


 その場にいた誰もが呆れ返ったが、普段のマスターソードのことを思い出してすぐに納得した。

 それがマスターソードの人徳の限界だった。


 その時ピロロロピロロロと着信音がして、グランドマスターが体をビクリと震わせた。

 この世界には携帯電話なんて無いし、通信用魔道具も高価でめったに目にかけないため、護衛たちが周囲を警戒する。


「あ、失礼します…………何だユースケ……はぁ?おい、ちょっとま……切られた」


「どうした?」


 ジェノルムが耳打ちすると、グランドマスターは失神してしまった。


「グランドマスター⁉どうしたのだ!ジェノルムよ、我らにも教えろ」


「コーメイがダンジョンマスターについたようです」


 会議は剣聖の時以上に衝撃に包まれた。


「コーメイ……各国がこぞってスカウト合戦をした賢人たちが頭を下げる……彼らの師であるコーメイですか?まさか生きていただなんて」


 過去の事を知らないものからすれば、記録上の孔明は数十年前の人間。その弟子たちが各国の重職についていることから、彼は半ば伝説のようになっていた。


 その孔明までも雄亮の陣営に入ってしまったとすると、人間の智と武の最高峰が一つの勢力の中にいることになる。

 しかもその勢力は決して人間たちの味方とは言い難いダンジョンマスターだ。


「いや、待て。その情報は正しいのか?流石におかしくないか?」


「ダンジョンマスター本人が言ってきました」


「何⁉というか、その板はなんだ!それで連絡が取れるのか?通信用魔道具はそこまで小さくないだろう」


 そろそろ海千山千の各国の長も流石に処理できる情報量の限界に来ていた。


「このダンジョンマスターは世界征服でも考えているのか……?」


「うーむ、そんなことしそうな男でもないと見たがな。少なくともバカ娘の事をおかしいと言って止めるくらいはまともだ」


「じゃあ大丈夫か……」


 これが聖女の人徳だった。


「話は通じるようだし、倒すよりも友好を結んだ方が我らに利があると思う」


「そもそも倒せるのか?」


「帰国したら早急にスライムダンジョンへ使者を送りましょう」


「そもそもあのダンジョンに関しては誰も困ってないしの。むしろ経済が回るし問題ないじゃろ」


 スライムダンジョンは敵として考えるにはあまりにも厄介であるため、各国の長はそれ以上考えるのを放棄した。






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