第92話

「やあ、こんにちは」


「こんにちは。臥龍先生」


「ふふん。分かってるじゃないですか。やはり貴方も召喚者なのですね?」


 コーメイは愉快そうに笑って起き上がり、急須で茶を注ぎながらそう言ってきた。

 劉玄徳とか臥龍先生とか三国志について分かってたら、ほぼ間違いなくこの世界の人間じゃないからな。


「はい。もっとも、神聖国に召喚された訳ではありませんが」


「……ほう。あの国以外で異世界召喚の術が使える国があったとは。一体何をなさってるのですか?」


「ダンジョンマスター」


 さすがに彼も驚いたのか、飲んでいた茶を吹き出してしまった。


「ダンジョンマスター⁉あのダンジョンマスターですか⁉…………ズバリ、スライムダンジョンでしょ!」


「正解だ。一瞬素が出たなコーメイさん。まずは自己紹介だ。俺は雄亮だ。よろしく」


「……おほん。私は孔明です」


「本名は?」


「捨てました」


 本気でなりきってるんだな。

 さて、驚くときはちゃんと驚くことが分かったけど、その後すぐに俺がスライムダンジョンのダンジョンマスターだということを予想できてるので、噂通りの智者らしい。

 何が何でも味方に引き入れたいな。


「孔明、俺のもとでその才能を使う気はないか?」


「早速本題ですか。私の心の中ではほとんど誘いに乗る気でいますが、それでは少々芸が無い。弟も養わないといけないので」


 嘘だ。兄よりもしっかりしてそうなあの弟を養う必要はない。

 なにか欲しいものでもあるのか?


「先生は何を望む?」


「知識。私の知らないことなら何でも。あなたにそれがありますか?」


「…………うちのダンジョンに日本中の書籍を集めた図書館が」


「行きましょう」


 早!なんだこの茶番は。

 孔明は善は急げとばかりに荷造りを始めた。

 均と童も呼んでまたたく間に家の中のものを荷車に乗せきった。


「もうちょっと駆け引き的な物を期待してたんだが……」


「私も同じですが、あなたが初手から強カードを切ってきたので思わず飲んでしまいました」


 孔明の荷物をアイテムボックスに収めるとみんな目を丸くしていた。

 馬車に戻ると流石に慣れたのかほうとだけ言った。


「そういえば私の勇者としての力を教えていませんでしたね」


「転移魔法だろ?」


「いいえ、それは勇者全員が持ってる言うなれば標準機能です。勇者は一人一人に特殊な能力を持ってるのです。例えば私は一度得た知識を絶対に忘れず、自在に引き出すことができます」


 へー、勇者ってそんなの付いてるのか。

 孔明の能力は一見地味だがすごい能力だ。

 分かりやすく言うなら、教科書を初日に読んだだけで全て暗記できるってことだな。学生からすれば喉から手が出るほど欲しい能力だろう。


「均の能力は?」


「未来予測。的中率百なので実質予知ですね」


「僕が予測したいくつもの未来の内最良の物を、兄さんの知識を使って現実にする。そうやって神聖国から逃げて龍人の里に行ったんです」


 すごい。最強の兄弟だ。一人でも厄介なのに二人が揃ったら誰も勝てる気がしない。

 本当に仲間にできて良かった。


「ユースケ?帰ったのね。てことはその人が孔明ね。あたしはヴァイオレット。よろしく」


「よろしく。私は孔明、こっちは弟の均です。ところでお嬢さんの後ろにいるのはデスパラディンですか?」


「ええ、こっちは黄忠、こっちは馬超よ」


 三国志を読破したヴァイオレットは名付けのしていないデスパラディンに片っ端から三国志の武将の名前をつけていった。

 見事にハマったようだ。


「それはまた趣味のいい。あなたの好きな三国志の人物は誰ですか?」


「呂布!」


「なぜ?」


「強いから!」 


 単純な理由だなあ。


「雄亮さんは?」


「俺?えーっと、やっぱり孔明かな。他は徐庶とか龐統とか」


 俺の雄亮の亮は孔明の名前から取ったって親が言ってたしな。


「ははは。やはりあなたとは仲良くなれそうだ」


 孔明は目を細めて言った。






============================




もしも少しでも面白いと思ったら、フォローやレビュー、応援をしていただけると、非常に励みになります。よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る