第35話
「チナ、彼は彼氏さんかい?仲がいいんだね」
「ち、違うです!今はまだ……って何を言わせてるです!」
俺がからかうと、チナは顔を真っ赤にして手をバタバタと振りながら否定した。
だけどその態度にゾルもしょんぼりしている。
……両想いか。あれ?おかしいな、雨が頬を伝っていく。
フルフェイスの兜なのに。はははは…………はぁ。
「おいチナ。こいつ誰だよ」
「彼はユースケさん。私が人さらいに襲われていた所を助けてくれたのです」
その後のドクタースライムまでのくだりを話すとゾルはこいつが?というふうに疑いの視線でジロジロと見てくる。
顔は見せてないけど声でクソガキなのはバレてるからなあ。
それにフルプレートメイルだけど小柄だし、アダマンタイトを知らないものにとったら俺の黒い鎧は汚れてるだけにしか見えない。
「初めまして。ユースケだ。」
俺はゾルの視線を身振りでチナの方へ向けると、かなり不機嫌なチナがゾルの視界に入った。
そこでゾルはまずいと気がついたようだ。
「…………初めましてゾルです。チナとは幼馴染で、こいつを助けてくれてありがとう…………ございます」
素直に頭を下げてくる辺り、悪いやつでは無さそうだ。
チナの機嫌も治り、二人でホッと胸をなでおろす。
「チナ。家族や村の人をスライムに見せるんだ。そうすれば後は勝手にやってくれる」
「そうでした。行くです!」
「あっ、患者たちは村の集会所にあつめてあるぞ!ってもう居ない」
ビューン!と走り去るチナを俺とゾルは見送ることしかできなかった。
あのスピードなら人さらいから逃げられたんじゃないか?
「あいつは何を対価に差し出したんだ?」
「対価?」
何だ藪から棒に?
「冒険者を雇うには何かしらの対価が必要だ。もしそれがとんでもない対価なら俺が払う」
中々男前だなぁ。
惚れた相手もために何でもする男って憧れる。
ゾル、漢だぜ。
「対価をもらう気はない。そもそも俺冒険者じゃ無いし」
俺の言葉にゾルはあんぐりと口を開け、驚きのあまり目を見開いた。
普通の冒険者だったらギルドを通さない依頼だと保証が無いから、ニ〜三割増くらい高めの金で依頼を受けると聞いたことがる。
悪質なものだと十倍くらいふっかけるやつもいる。
ゾルもそれくらいの対価を想像していたのだろう。
「それじゃあ、なんでアイツを助けたんだ?なんの利益も無いだろうに」
「そりゃほ…………な、何を言ってるんだ。困ってる人を助けるのは当たり前だろう」
俺がそう言うとゾルは目元に手を当て天を仰いで呻くように笑った。
「くくっ。あんたお人好しすぎるだろう。だけどチナを助けてくれたのがあんたみたいな人で良かったよ」
なぜかゾルの態度が柔らかくなった。
多少は認められたってことだろうか。
「お人好しねぇ。そこまでいいことしてる気はないんだけど」
「あんたは十分お人好しだよ」
「そうかな?」
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